結婚式の喜びを伝えることが自社PRよりも先
──ウェディング業界の市況を踏まえつつ、御社がマーケティングの力で解消したいと感じていた課題を教えてください。
大串(アルカディア):近年は入籍した方々のうち、結婚式を挙げる方の割合は約半分と言われています。挙式しない理由は「お金がかかる」「形式ばったイベントが苦手」「タイミングが合わなかった」などです。
大串(アルカディア):結婚式を挙げない方の割合は、コロナ禍によって一層増加しました。しかし同時に、人が集うことの大切さを実感した方も多かったようです。実際、挙式の目的を「自分たちのため」というより「周囲の人に感謝を伝えるため」と捉える方は増えました。私たちはそんな新郎新婦のお手伝いがしたいと考え、テレビCMや雑誌、自社のサイトやラジオなどを通して「今の時代に結婚式を挙げる喜び」を伝え始めたのですが、より“押し付け感”がない伝え方も模索していました。
──電通九州は、アルカディアのPRに伴走しているとうかがいました。企業メッセージの新しい伝え方として、どのようなプランを提案されたのでしょうか?
松下(電通九州):テレビCMに加え、TikTokショートドラマを活用したプロモーションを提案しました。これまでは、アルカディアのターゲット(20代・30代)が視聴するテレビ番組の放映に合わせて15秒のCMを提案・実施していたのですが、それだけでは「今の時代に結婚式を挙げる喜び」が十分に伝わりきらないもどかしさを感じていたんです。そんな折、ごっこ倶楽部の制作したTikTokショートドラマが社内で共有されました。拝見したところ、アルカディアのメッセージを対象者に届ける最適な手法だと感じたのです。
三部作のドラマに込めた緻密な狙い
──松下さんの提案を受けて、アルカディアのTikTokショートドラマ施策がスタートしたわけですね。ドラマの企画・ディレクションをセプテーニが、制作をごっこ倶楽部が担当したとうかがいました。ドラマの概要と狙い、クリエイティブのポイントを教えてください。
江村(セプテーニ):結婚式の機能的・情緒的便益を訴求するだけでは、既に活用されていたテレビCMと変わりません。結婚はしても結婚式はしない方の意識を変えるためには、明確なコンセプトが必要だと考えました。
江村(セプテーニ):新郎新婦の二人だけでなく、参列者の人生にも影響を与える価値のあるものとして結婚式を描く──そんなコンセプトの下、三部作のドラマを設計しました。第一話にあたる「誓い」は、ミスリードを誘うストーリーが特徴です。繰り返し見たくなる気持ちを刺激し、ドラマ自体をバズらせる狙いがありました。
第一話「誓い」
江村(セプテーニ):第二話の「ことのは」では家族愛を描きつつ、式場の内観が伝わる映像に仕立てています。
第二話「ことのは」
江村(セプテーニ):プランナーと新郎新婦の打ち合わせの様子を映した第三話「wedding for」は、王道のプロモーション動画に近い作品です。第一話と第二話のストーリーと連動させつつ「種類の豊富なドレス」「信頼できるプランナー」「おいしそうな料理」など、機能的な訴求ポイントを盛り込んでいます。
第三話「wedding for」
江村(セプテーニ):「誓い=結婚式を挙げたい」「ことのは=結婚式場で挙式したい」「wedding for=アルカディアで結婚式を挙げたい」という具合に、3本のドラマが挙式検討の進度に対応しています。つまり、第一話<第二話<第三話の順で訴求力が徐々に強くなっているのです。訴求力を上げると拡散力が下がりやすくなるため、第三話のwedding forのみ広告配信も実施しました。ストーリー性の高い第一話と第二話があったからこそ、第三話でアルカディアの魅力を自然に伝えられたと考えています。
おもしろくなければそもそも見られない
中矢(ごっこ倶楽部):クリエイティブのポイントをご紹介する前に、私からショートドラマを活用したプロモーションが従来の広告手法と異なる点についてお話ししたいと思います。
中矢(ごっこ倶楽部):コンテンツとそれを提供するサービスが飽和し、料金を支払って広告を見ない選択肢が浸透している昨今、企業はどうすれば生活者にメッセージを届けることができるのでしょうか。私は、コンテンツのおもしろさに鍵があると考えます。おもしろいと感じるコンテンツなら、生活者は目を向けるからです。
企業側が伝えたいメッセージをベースにしたクリエイティブでは、広告色が強く出て視聴者が離脱してしまいます。インフルエンサーマーケティングはバズりやすい反面、場合によっては企業の伝えたいことがうまく伝わらないクリエイティブになってしまう可能性もあるでしょう。コンテンツのおもしろさとアルカディアのメッセージをどう融合させるかが、今回の制作上のポイントでした。アルカディアの皆様は、私たちの考えを理解した上でショートドラマの制作を一任してくださいました。
ショートドラマ×テレビCMの驚くべきリフト効果
──今回のプロモーションを通じてどのような成果が得られたのでしょうか?
江村(セプテーニ):第一話と第二話は、合計で320万回再生されました(2023年10月時点)。今回はTikTokショートドラマの公開と同時期にテレビCMも実施したのですが、特筆すべきは二つの相乗効果です。福岡県と佐賀県に在住する未婚者約4,000名を対象にアンケートを実施したところ、TikTokショートドラマとテレビCMを重複視聴した方のブランド認知率は58.7%でした。この数値はテレビCMのみ視聴した方よりも16ポイント高く、テレビCM×TikTokショートドラマがもたらすリフト効果の大きさを物語っています。
江村(セプテーニ):さらに、重複視聴者のブランド好感度も81.3%と高く、テレビCM単体の視聴者より40ポイント以上高かったのです。ブランド利用意向でも同様の傾向が見られました。
──今回の成功要因はどこにあったとお考えですか?
江村(セプテーニ):テレビCMの素材をWebの動画広告にそのまま流用するケースは少なくありませんが、今回はそれをせず、テレビCMはテレビCM、TikTokはTikTokでオリジナルのクリエイティブを制作したことにより、相乗効果が高まったと考えています。
中矢(ごっこ倶楽部):テレビCMでは九州エリアを広くカバーし、TikTokではアルカディアのターゲットである若年層を狙ったことも功を奏したのではないでしょうか。TikTokユーザーのボリュームゾーンは30歳以下ですから、結婚式の検討層ともマッチします。
第一話と第二話をオーガニックで投稿し、それらを見た方に広告で第三話を届ける。今はプラットフォームがアルゴリズムでユーザーを選ぶ時代になっているため、テレビCM×TikTokで網目は広く張る。その結果、両方で接触した方への効果が最も高く表れました。
TikTokはコメント欄もコンテンツの一部
──プロモーションを振り返ってみて、松下さんと大串さんはいかがですか?
松下(電通九州):TikTokで結婚式検討層の20代・30代に対象を定めつつ、「テレビCMだけでは今の時代に結婚式を挙げる喜びが十分に伝わりきらない」という当初の課題をショートドラマで解消できたと感じます。
大串(アルカディア):今回の第一目的は結婚式の意味と価値を知ってもらうことにあったため、その点においては非常に手ごたえを感じています。TikTokのコメント欄で「家族のための結婚式もいいよね」という投稿をお見かけしたときはうれしかったです。知りたかったのは、このような生の声でしたから。「私もアルカディアで結婚式を挙げました」などの意外な反応も得られました。
中矢(ごっこ倶楽部):TikTokはコメント欄もコンテンツの一部です。多くのユーザーはコメント欄の投稿を見ながら動画を視聴しています。企業がTikTokを活用する際は、大串さんのようにコメント欄を定性調査の場として捉えるのも有効です。
大串(アルカディア):おかげ様で最近は20代前半のお客様にお越しいただくことも増えているのですが、中には「TikTokでショートドラマを見ました」とおっしゃる方もいて。動画を見てくださっているからこそ、ポジティブにお話を進めることができています。
公式アカウントのフォロワーが少なくてもぜひトライを
──最後に、それぞれのお立場から今後の展望をお聞かせください。
大串(アルカディア):おもしろいコンテンツをつくって発信するアルカディアの姿勢に共感いただき、最終的には当社のファンになっていただきたいため、TikTokショートドラマのお取り組みは単発で終わらせずに続けていきたいです。
ブライダル業界に限らずどの産業でも言えることかもしれませんが、今は表面的なPRよりも企業の姿勢やメッセージを伝える努力が不可欠です。今後も多くの方々に結婚式の喜びを感じていただけるよう取り組んでいきたいと思います。
松下(電通九州):式場というハード面だけで差別化を図ることが難しい今の時代、企業の人となりが他社との差別化につながると考えます。今後も既存のメディアや手法にとらわれず、アルカディアの人となりを伝えるための提案を続けたいです。
江村(セプテーニ):今回の事例が示すとおり、TikTokショートドラマはコンテンツ自体でバズらせることが可能です。Z世代に対するリーチやブランディングの強化を考えている企業様には必ず貢献できる手法だと思いますし、「せっかくブランデッドムービーをつくったのに、自社の公式SNSアカウントのフォロワー数が少なすぎてうまくいかなかった」という企業様にもぜひTikTokショートドラマを活用していただきたいです。
中矢(ごっこ倶楽部):「コンテンツがバズった」で終わらせず、広く深く拡散させるためにはどうすれば良いか。セプテーニとチームを組むことで、新しい時代のマーケティングを切り拓いていきたいと思います。