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世界動向の先を読む「もう1つの視点」

電通グループがリセット償却したM&A資産 次なる「AIエージェント基盤」の構築・投資に向けて

Adobe・IBM・Oracle・Salesforce・SAPも追随したが撤退

 「広告データが新たな石油」という思想のもとで進んだ投資は、広告業界に留まるものではなかった。Adobe・IBM・Oracle・Salesforce・SAPといったテックジャイアントも、この領域へ一斉に参入していた。

 これら巨大テック企業の参入は、既存の広告エージェンシーグループに「事業を根底から奪われる」という危機感を植え付け、煽った。しかし、図4に並ぶ事業群の多くは十分な価値を創出できないまま、一過性のブームとして償却、あるいは撤退を余儀なくされているのが実態である。

【図4】テックジャイアントによる広告データ企業の買収事例、2019年当時:Adobe・SalesForce・Oracle(出所:『MAD MAN REPORT』2019年1月号vol.50に基づき筆者作成、1ドル=110円換算)
【図4】テックジャイアントによる広告データ企業の買収事例、2019年当時:Adobe・SalesForce・Oracle(出所:『MAD MAN REPORT』2019年1月号vol.50に基づき筆者作成、1ドル=110円換算)

 この連鎖的なM&Aの結果、電通グループが世界で積み上げたのれん資産は、2023年末で8,311億円に(図5)。無形資産の項目を加えた「広い意味ののれん」ならば、合計1兆円を超えていた

 電通グループは世界規模で集積された事業群の資産価値について、将来期待されるキャッシュフローに基づき厳格に再評価された結果、買収当時の想定を下回ると判断。これを受け、2024年度から2025年度にかけて、段階的な減損措置が断行されたのが最終利益赤字の背景である。

 2025年末のれん残高は3,201億円まで圧縮されており(図5)、2023年末からの2年間で約5,110億円(6割)もの資産を削減したことになる。報道で強調される巨額赤字の正体は、まさにこの財務上の判断に他ならない。

【図5】電通グループののれん資産残高の比較(上:2023年末→下:2025年末
【図5】電通グループののれん資産残高の比較(上:2023年末→下:2025年末)

 WPPやOmnicomを含め、さらに日本の上場企業においても起こり得る、デジタル全盛期のM&A投資のコスト回収を見出せぬまま負債として未来に付け、後に多額の減損処理を迫られる経営パターンだったとしよう。

 電通グループの今回の判断(2年前)は、新体制(AI基盤)へ向けた次世代エージェンシーの経営陣へのバトンタッチを見据えた準備づくりだったと言える。広告Cookie(ターゲティング)時代の投資を振り返った上での、次なる「AIエージェンティックモデル」への移行だ。

事業投資の転換点。「AIエージェント」同士が繋がり、AIトークンの取引買い付けも開始

 既に「次世代のエージェンシー」事業投資にも、大きな転換が生まれている。

 AIが広告エージェンシーの日常業務に浸透するにつれ、業種専門「AIエージェント」が登場し、それらが他のAIエージェント同士と接続された「AIオーケストレーション化」が進んでいく。

 そのAIエージェントたちを動かすコスト(通貨)として、これまで存在しなかった「AIコンピュートコスト」が損益計算書(P/L)の中核に浮上している

 「エージェンシーのエネルギーとなる“AIの計算資源(トークン)“を、原材料としていかに安価に仕入れるか」――コピーライティング、パフォーマンスレポートの生成、クリエイティブのバリエーション制作などのあらゆるタスクがAIトークン(AI作業の単位)を消費し、その成果物のコストは利用高に比例する変動費(定額サブスクではなく、予測が困難)としてエージェンシーの経営に積み上がる。まるでCookie集積コストの再来のようだ。

 上記の「クリエイティブの生成」の程度ならばAI活用も想像しやすいが、より規模・範囲が大きくなる、メディアプラニングから実行・バイイングまでの作業自動化ならばどうだろうか。そのサービスでは、テクノロジー企業・データ企業・メディア企業・金融取引・リテール企業のAIエージェント同士が相互連携し、より優れた(複雑な)パフォーマンスを生み出すAIの「オーケストレーション(仕組み)」が求められる。

 こうしてOpenAI、Google、Anthropicなどの「AI作業トークン」を担う企業が全産業を揺さぶり動かしている

 コンサルやマーケティング・広告エージェンシーの事業では、“AI単体”への投資よりも、それらを接続させる通貨となる「AIトークン」の消費確保のために「先買い」が始まっている。この動きは、テレビ広告のアップフロント取引(先買い切り:プリンシパル購買)のAI版と置き換えられる。WPP、Omnicom、PublicisといったホールディングカンパニーがAnthropicやGoogleとAIトークンの「バルク買い」「エンタープライズ割引の交渉」「トークンの貯蔵庫」に注力し始めたのは、旧来の経済活動テクニックだ。

 これらのAIトークンへの買い付けコストをクライアント企業に対し、「自社で吸収する(自腹負担)」か、「転嫁する(クライアントに伝票課金)」か、「グロス取引(含みコストで裁定する)」か、事業モデルの答えはまだ見えない。英WPPはプリンシパル取引(まずは買い切り)が「クライアントにとってより魅力的な製品である(に戻る)」と主張している。

 かつてのデータ至上主義と同様、「“AI”FOMO(AI化の流れに取り残されるな)」に影響された未来負債への転嫁にならぬよう、AI基盤での新ビジネスモデルを考えたい。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2026/03/17 08:00 https://markezine.jp/article/detail/50505

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