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世界動向の先を読む「もう1つの視点」

少子化に逆行成長するキッズ市場 キッズ向け都市型リアル店舗の収益化構造

体験と物販のバランスを誤った敗者店舗の事例

 紹介してきたキッズ向けのブランドは、リアル店舗物販に閉じていないビジネスの一例だ。しかし、既存の小売店舗プレーヤーが単に「体験」を付加しただけで、生き残れるわけではない。巨大チェーン店であっても、一瞬で破綻していった例もある。

1.「buybuy BABY」の2度の破綻

 ベビー用品小売の巨人であったbuybuy BABYは、2007年に同業リアル店舗のBed Bath & Beyondに買収されたが、その親企業も破産に至った。リアル店舗を維持する重い固定費が、新たなキッズ体験価値を上回っていたことが敗因の一つだ。

2.何度も倒れてきた「Toys"R"Us 」

 日本でも有名なToys"R"Usは、店舗事業を2005年の救済買収、そして2017年の破綻と2度失敗させ、3度目の再起としてインタラクティブな遊び場を併設した「体験型新フォーマット」で再出発を図った。ところが、かろうじて残っていたカナダ事業も、直近1年間で57ヵ所を閉店しているという状況に至る。体験型スペースを併設しても、顧客との関係構築が物販を起点とした延長戦に留まる限り、事業は成り立たない。

3.「Carter’s」150店舗閉鎖

 米国子ども服大手のCarter’sは、アジアからの輸入品に対する関税圧力を理由に、今後3年間で約150店舗を閉鎖する計画を発表した。アパレル小売は、体験型を装っても物販比率が高いままのモデルでは限界が見える。

 これらの有名企業の失敗例に共通しているのは、「在庫を並べて、客を待つ」という旧来の物販モデルを維持したまま、片隅に「体験型(遊び場や無料体験イベント)」を設ける程度に留まっていたことだ。欠如していたのは「体験の不足」ではなく「在庫依存・固定費負担・関係性の短さ」という事業の重石を、転換せずに抱え続けた点にある。

単品売り切りではない、長期のLTV化

 事業視点の成否の分岐点も浮かび上がってくる。本稿で紹介した成長企業は「キッズ」、すなわち出産から乳児期以降の小学生を含む6歳から12歳、さらにその先のティーン・大人(親)・コレクター層までを射程に収めている。

 一方で、人生のごく短い幼児フェーズや単品商品(例:ベビーカーや月齢に合わせた衣料)だけに事業を閉じた小売は、顧客が2〜3年で卒業し、リピートで戻ることもなく、LTVが物理的に短くなる。Toys"R"Usが何度も倒れたのは、顧客と“買ったら終わり”の短い関係しか築けなかったからだ。

 好調な企業に共通するのは、空間・時間体験そのものの価値を引き上げている点。孫に最高の体験をさせたい祖父母、SNSで非日常を共有したいミレニアル世代の親――6ポケットの財布が開く先は、もはや「モノ」ではなく「時間と記憶」に移行している。

 毎年の誕生日、毎月の季節イベント、一緒に行く旅行など、成長に合わせた新しい体験ステージがある。子どもが育つ限り、来店と課金の理由が尽きない。ホテル・エアライン業界も、6ポケットの祖父母が主役の「Skip-Gen(世代飛ばし)トラベル(“孫旅”)」の市場を狙い始めた。孫と共有する「時間と記憶」という、より付加価値の高い財布(ポケット)を狙った新たな体験型市場へと、その領域を広げているのだ。

 キッズ市場の本質は、出生数の多寡ではなく、1人の子どもの成長する時間軸をどこまで事業の射程に入れられるかにある。親だけでなく祖父母まで含めた複数の財布を捉え、かつ12年単位で「時間」と「体験」に支出する構造まで捉えられるかどうかが、勝敗を分ける。この掛け算の構造に、少子化の逆説を収益に転換するヒントがある。

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この記事の著者

榮枝 洋文(サカエダ ヒロフミ)

株式会社ベストインクラスプロデューサーズ(BICP)/ニューヨークオフィス代表
英WPPグループ傘下にて日本の広告会社の中国・香港、そして米国法人CFO兼副社長の後、株式会社デジタルインテリジェンス取締役を経て現職。海外経営マネジメントをベースにしたコンサルテーションを行う。日本広告業協会(JAAA)会報誌コラムニスト。著書に『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。ニューヨーク最新動向を解説する『MAD MAN Report』を発刊。米国コロンビア大学経営大学院(MBA)修了。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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2026/05/25 09:00 https://markezine.jp/article/detail/50730

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