パッケージ戦略は「場面×体験」を設計する時代に
このときエコ版は「安い」だけでなく、「環境負荷の低い選択をしたい」「資源を大切に使いたい」という意思表示になる。エコパッケージを選ぶこと自体が、新しい消費者の価値観やライフスタイルを示す行為になる。
もちろん課題もある。通常版とエコ版を同じ商品コードで扱うか別にするか、棚での並べ方、価格差、ECでの表示、誤購入を防ぐ案内など、実務上の論点は少なくない。だが、だからこそここには大きなマーケティングの機会がある。これは単なる商品の「売り方」の設計ではない。消費者の価値観に寄り添いながら、買い、使い、捨て、そして次の循環に参加するという「ライフスタイルそのもの」にも寄り添うマーケティングである。自動販売機でも、表示見本は通常版だがボタンを押すと出てくるのはエコ版、といった設計もあり得る。これからのパッケージ戦略は「どちらが正しいか」ではなく、「どの場面で、どの体験を提供するのか」を設計する時代に入る。
「消費者保護」と「資源削減」は両立できるのか
パッケージの資源使用量を減らす方法として有力なのは、食品表示や製品情報の一部をQRコード化するという発想である。これは筆者が2020年に出版した『マーケティング視点のDX(日経BP)』で論じた「顧客接点や情報提供をデジタルで再設計する」という考え方ともつながる。
ただしQRコード化を単純な「省インク策」として捉えてはならない。食品パッケージのアレルギー表示、原材料、添加物、賞味期限、保存方法、栄養成分などは、消費者が安全に商品を選ぶための重要な情報である。食品表示法は、食品表示が「食品を摂取する際の安全性の確保」および「自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保」に重要な役割を果たすとしている。食品表示は消費者保護のための社会インフラなのだ。
一方で、循環型社会に向かうためには包装に使う資源やインクの使用量を減らす必要もある。今後の制度設計では「情報を守ること」と「資源を減らすこと」を同時に考える必要がある。消費者庁では「食品表示へのデジタルツール活用検討分科会」を設け議論を進めており、2025年12月には取りまとめ資料も公表されている。
食品表示のQRコード化は、消費者保護、資源削減、情報管理、流通、アクセシビリティを同時に考える社会設計である。技術論やアクセシビリティ配慮の詳細は次章で論じるが、この議論には消費者庁だけでなく、農林水産省、経済産業省、環境省、デジタル庁、厚生労働省など複数の省庁が関わる必要がある。食品表示は消費者保護の問題であり、食品流通の問題であり、包装資材や産業政策の問題であり、資源循環の問題であり、デジタルインフラの問題でもあるからだ。
日本が、必要な表示情報を守りながら包装資源を減らし、誰も取り残さないデジタル情報提供の仕組みを作ることができれば、それは世界に示せる新しい社会モデルになるはずだ。
後編(6月3日公開予定)ではより具体的な方策の可能性について解説する。
