「形成」の第一歩は「顧客のブランド経験」への理解から
ここからは、ブランド・リレーションシップの「形成」に焦点を絞って考えます。ブランド・リレーションシップは、企業から一方的に説得されたり、あるいは情報を提示されたりすることで生まれるものでなく、顧客自身のブランド経験から生まれるものです。
このため、既に自社ブランドとの間にリレーションシップを形成している顧客が、過去にどのようなブランド経験をしてきたかを詳細に知ることは、ブランド・リレーションシップのマネジメントに多くの知見をもたらします。
ブランド・ヒストリーを語ってもらう
顧客のブランド経験を知るためのインタビューでよく用いられるのが、顧客自身にブランド経験を振り返ってもらい、自己とブランドの関係をストーリーとして語ってもらう方法です。
インタビューのポイントは、「ブランドとの関わり合い」と「そのときの状態」を組み合わせて聞くことです(星, 2016)。つまり、ブランドとどう接触したのか(どのように接し、何が生じたかなど)だけでなく、そのとき、自分はどのような状態にあったのか(心の状態、ライフ・イベント、ライフ・ステージなど)についても語ってもらいます。
顧客インタビューで意識すべき3つのR
Hoshi and Yoshida(2016) は、顧客のブランド経験から豊かなストーリーを引き出すシステマチックな手法として、Recollection(回想)、Repetition(反復)、Reflection(反映)というアプローチを提唱しています。このアプローチでは、次のような手順で進めます。
- Recollection(回想):ブランドとの出会いから現在に至るまでを、ゆっくり時間をかけて回想してもらう
- Repetition(反復):鍵となるブランド経験について、何度も繰り返し、深く掘り下げて語ってもらう
- Reflection(反映):そのブランドは自分にとって何を意味しているのかについて、じっくりと語ってもらう
3つのプロセスを丁寧に進めることで、インタビュアーの質問に答えるのではなく、顧客自身によってブランド・ストーリーが語られることになります。
インタビューでは尋ねるべきことがたくさんありますが、なかでも大切なのが「そのブランドと結びついているのは、どんな私なのか」ということと、「そのブランドは私にとってどのような存在なのか」ということです。
人にはいくつもの自己があり、それらを場面に応じて使い分けています(Aaker, 1999)。したがってブランド経験のインタビューでは、ブランドと結びついているのはどのような自己かについて、できるだけ詳細に情報を収集していくことが大切です。他にも、そのブランドがなくなったらどのようなことが生じるかについて尋ねたりするのも効果的です。
まとめ
今回は、ブランド・リレーションシップのマネジメントでは「形成」と「活用」という2つの課題があること、ブランド・リレーションシップの生み出す成果は幅広く捉えたほうが良いこと、そしてブランド・レーションシップを形成するには、まず顧客のブランド経験をよく理解すべきであることを述べました。
また顧客のブランド経験を知るためのインタビュー技法についても、簡単に説明しました。なお、今回も誌面の都合により、いずれもごく簡潔な説明に留まっています。
より深掘りした内容を理解されたい方は、ぜひ拙著『ブランド・リレーションシップ』をお読みください。次回も引き続き、ブランド・リレーションシップを「活用」したり「形成」したりするための「コツ」をご説明します。お楽しみに!
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【参考文献】
- Aaker, Jennifer L. (1997). Dimensions of Brand Personality. Journal of Marketing Research, 34 (3), 347-356.
- Hoshi, Akiko, and Yoshida, Tomoko (2016). Fell in Love at First Sight! or started as a Friend? One Hundred Stories of How Customers Fell in Love with a Brand. In Deborah S. Fellows (Ed.), ESOMAR Global Qualitative 2016 (pp. 196-208). Amsterdam, Netherlands: ESOMAR.
- 星晶子(2016).「絆を育てるブランド経験を明らかにする定性新手法:インテージ コグニティブ・インタビュー ブランド・エクスペリエンス」(2016年9月5日インテージ・アカデミー資料).