TOPPAN×インテグレート「CX研究プロジェクト」とは?
──はじめに、TOPPANとインテグレートによるCX研究プロジェクトが生まれた背景をお聞かせください。
服部:TOPPANとインテグレートは、2年前から企業の持続的な成長支援に向けて協業し、事業戦略立案から商品・サービス開発、顧客体験シナリオ構築から実装までワンストップで支援させていただいています。
デジタル化による情報の氾濫やコモディティ化により、ブランドと顧客は、購買という単発の「点」ではなく、継続的な「顧客体験」を通じた関係構築が重要となってきています。さらには、生活者の購買プロセスがAIによって劇変していく中で、マーケティングのあり方は今、根本的な再定義を迫られています。
こうした社会情勢を背景に、両社の強みを結集して、持続的な成長支援の核となる新しい次世代CXモデルの開発と社会実装を推進する「CX研究プロジェクト」を展開しています。
川又:本プロジェクトでは、商品やサービスの単発的な購入をゴールとはしていません。ターゲットの生活スタイル全般を見つめ、購入前から購入後に至る「包括的な顧客体験」の創造を前提としています。その中で、新たな価値と市場を生み出し、企業やブランドが自律的に成長し続けるためには何が必要なのか。これからの時代に求められる要件を研究してきました。
具体的なCXモデルの開発やその実行・社会実装にあたっては、インテグレートの「パーセプション(生活者の認識・態度)を根幹とした戦略に基づく“新しい買いたい”を創り出す力」と、TOPPANの「あらゆる顧客接点をシームレスに統合し“売れ続ける仕組み”を構築する実装力」、この2つのチカラがベースとなっています。
コモディティ化を突破する術をまとめた
──今回、書籍『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』を刊行されましたが、執筆に至った理由は何ですか?

服部:本書を執筆した最大の理由は、曖昧になりがちだった「CX(顧客体験)」の本質を体系化し、企業が直面している切実な経営課題を根本から解決するアプローチを提示したい、という強い意識からです。
今、多くの企業が中長期的な売上の安定を目指してCX向上を掲げていますよね。でも実際の現場では、イベントやCRM、SNSといった個別の施策として語られることが多く、いまだにCXの本質が曖昧なまま、単なる接点作りといった「点」の施策に留まっていると感じています。
加えて、私が日々向き合っているメーカーの経営層は、原材料の価格高騰という深刻な課題を抱えています。これまでは段階的な値上げによってしのいできましたが、生活者のお財布事情も限界に近づいています。これ以上は値上げできない、利益は減る、そしてマーケティング予算も削られる……という負の連鎖が起きています。この状況を打破するためには、従来の延長線上で戦うのではなく、まだ手をつけていない領域に高い価値を付けて売る「価値創生」がどうしても不可欠なんです。
つまり、現場における「点」のCX施策から脱却し、経営を救うレベルへと「CX」という言葉の解像度を引き上げる必要がありました。だからこそ本書では、CXを単なるカスタマージャーニーの設計や購買プロセスの最適化としてではなく、商品やサービスが「生活文化」に根付き、生活者にとって不可欠な存在になるまでを設計する営みとして捉え直しました。
ブランド、生活者、社会の三方に長期的な価値を創出する「価値創生CX」こそが、LTV(顧客生涯価値)を含めたCXの真の本質であり、今企業が目指すべき姿だとお伝えしたい想いで、執筆に至りました。
●価値創生CXとは:AIには見えない生活者の深いインサイトを読み解き、未充足な課題(ジョブ)を掘り起こし、商品・サービスを暮らしに不可欠な「生活文化」へと昇華させる包括的な戦略アプローチ。マーケティングモデルに落とし込んだ「価値創生モデル」の詳細を連載記事『AI時代の新戦略「価値創生CX」とは何か』でも紹介しています。なお、生活文化は一過性のブームや個人のライフスタイルを超え、集団に共通する行動様式や価値観として定着した状態を差します。
川又:多くの商品やサービスにおいてコモディティ化が進み、さらにAIによる最適化がそれを加速している現状を、我々は「最適化の罠」と呼んでいます。この状況は、特定のプラットフォーマーやNo.1シェアの商品を持つ企業にとっては有利に働く可能性があると思っていますが……。
一方で、多くの企業にとっては、提供する商品や訴求する情報の同質化が進行し、その中でマーケティングコストだけが増加、結果として生活者の選択肢も徐々に狭まっていくという「負の循環」が少なからず生じていると考えています。
CXの在り方を改めて問い直すことが、これらの「負の循環」を打開する一つの道筋になるのではないか? と考えたことが、今回の書籍執筆に至った大きなきっかけです。
今、必要とされることは、AIによる最適化では解を見いだせない社会や生活者の潜在的もしくは将来的な課題やニーズを洞察し、商品・サービスをもってそれらに応え、より多くの人々の豊かな暮らしを創り出していく、そこまでを見据えた次なるマーケティング戦略だと考えています。
その戦略の実現のためには、単に商品の差別価値や魅力を整理し、ターゲットに効率よく情報を届け、適宜刈り取るといった従来型のマーケティングに留まらない、「未充足な課題を顕在化し、商品を介して実際に生活が変わる(生活課題が解決される)ところまでを生活者に実感をもってイメージいただくこと」=「価値創生CX」が必要不可欠と考えています。
価値創生CXの実践に向けた環境づくりこそが、従来のCXとは一線を画す「至高のCX」が意図するものです。本書ではその考え方を提示すると共に、具体的な実装方法について解説しています。
──どのような方に向けた書籍なのでしょうか?
服部:大きく分けて、2つの立場の方々にぜひ読んでいただきたいと考えています。
1つ目は、企業の経営層や事業責任者の皆様です。現在、多くの企業がAIの進化に伴う「最適化の罠」に直面し、既存市場で顕在化したニーズを奪い合う激しい価格競争や、ブランドの均質化(コモディティ化)に限界を感じているはずです。これまでのやり取りでも触れたように、原材料高騰などで従来のビジネスモデルが通用しなくなりつつあるという切実な課題もあります。本書は、そうした状況下で「低迷する既存ブランドを回復させたい」「戦略に変化が必要だが、何を変えたいかわからない」と悩むリーダーの方々に向けて書いています。
書籍では「市場創造メソッド」という言葉が使用されているため、新規事業担当向けだという先入観を持たれそうですが、新規事業を立ち上げる時に限らず、むしろ既存事業において、今ある顧客基盤や接点を活かしながらどのように新しい体験価値を創出し、経営を立て直していくべきか、そのヒントを見つけていただけるはずです。
2つ目は、現場で日々マーケティングやCX戦略に向き合っているマーケターの皆様です。AIが効率と正解を追求して購買プロセスすら代行していく時代において、マーケターの真のミッションは、AIには決して持てない「熱量」を持って生活者と生身で向き合い、顕在化されたデータの裏側にある見えない本音を掘り起こすことにあります。生活者の潜在的な意識やジョブを捉え直すことで、商品そのものを変えずとも新たな価値を生み出し、継続的に売れ続ける仕組みを設計できます。
既存のパイを奪い合う消耗戦から脱却し、商品の価値をアップデートし続けることが、商品を単なる選択肢から暮らしに不可欠な「生活文化」への定着につながると考えています。 そのための実践的なアプローチとして、本書をお役立ていただきたいです。
川又:本書で説いている「価値創生モデル」は社会や生活者の未充足な課題に着目することがスタートとなるモデルなので、自身が担当する商品が解決できる未解決な課題は何か? という目線から市場を見つめ直すことができます。
加えて、自社商品はそのままもしくは若干の改良を加えるだけで様々なステークホルダーを巻き込みながら“新しい価値を共創していくこと”も想定したモデルなので、いわゆる新規事業・新商品の開発担当者だけでなく、既に販売している商品を取り扱うブランドマネージャーやマーケターの次なるマーケティングの一手、もしくは商品のリニュアル・リブランディングを検討していくための一助としてもご活用いただけるのではないかと考えています。
そういう意味では、「この難しい時代にモノを売ることに腐心されている多くの方々」に何がしかのヒントやきっかけをご提供できる本に仕上がっていると思っています。

