商品・サービスが主語になっていないか?
──価値創生CXに関心を持ったマーケターが、最初の一歩を踏み出すには何から始めればよいでしょうか。
服部:生活者の観察と深い洞察から始めることをおすすめします。データや数字では見えにくい、少数の声や行動の中にこそ変化の兆しが潜んでいます。一見ささいな行動の「なぜ」を徹底的に深掘りすることが、新たな価値発見の起点になります。
定量・定性調査はもちろん、購買データやSNSのつぶやき、コールセンターへの問い合わせなど、あらゆる情報を活用して、生身の人間を深く理解する素材として向き合います。生活者自身も言語化できない違和感や代替行動などの心の機微を想像力で読み解き、真の課題を見つける。この深い人間理解こそが、商品を暮らしの「新しい当たり前(生活文化)」へと育てる第一歩になるかなと思っています。
川又:本書にも記していますが、まず「未充足の課題=ジョブ」を見つけることです。その際、商品を主語にするのではなく、生活者のニーズやジョブを主語にして、その解決として自社商品を当てはめていく。その試行錯誤が重要です。
また、単に商品を考えるのではなく、カテゴリーそのものを捉え直してみてください。既存カテゴリーの中に新しい価値観に基づいたサブカテゴリーを切り出せないか?その先でその流れをカテゴリーの本流として仕立て上げられないか?という視点で消費行動を観察することが最初の一歩になります。
そしてもう一つ、一人で抱え込まず、近しいヒトや異なる領域のモノゴトととりあえず、つながってみることです。新たなつながりが思わぬ発見や商品そのものへの変化をもたらし、体験設計の幅を広げてくれるはずです。
取り組むのは「CX」ではなく、「豊かな暮らしづくり」
──最後に、読者へのメッセージをお願いします。
服部:顕在化した需要を刈り取る競争が、これまでのマーケティングの中心でした。しかし今後は、新しい価値を見出し、育み、生活文化にしていくことこそがマーケティングの進化です。
AIがマーケティングの最適化や効率化を担ってくれる時代だからこそ、私たち人間は、AIには決してできない深い洞察と人の熱量によって「意味」や「価値」を創り出すことに全力を注ぐことができます。既存のパイを奪い合う「最適化の罠」から抜け出し、生活者自身も気づいていない隠れた本音(ジョブ)に寄り添うこと。そして、自社だけで完結するのではなく、様々なステークホルダーと共創しながら、新しい「生活文化」を創り上げること。それこそが、これからのマーケターに求められる真の役割だと信じています。
生活者が喜び、ブランドが成長し、社会にとっても意義を持つ。そんな三方よしの世界を、本書を通じて実現できれば幸いです。本書が、皆様にとってその第一歩を踏み出すための視点と勇気になれば、これに勝る喜びはありません。
川又:一つお願いがあります。「CXに取り組もう」と思って本書を読まないでほしいです。CXは目的ではなく、自社の事業や商品、もしくは市場そのものをグロースさせるための視点・手段です。生活者にとってより豊かな暮らしを生み出すために、自社の商品がどう寄与できるか、その根本を考えていただきたいです。
そして、本書を通じて、その問いに向き合う中で何か行き詰まったとき、私たちTOPPAN×インテグレートCX研究プロジェクトがご相談相手になることができれば幸いです。


