戦略を実務に落とし込む『顧客思考の仕事術』
MarkeZine(以下、MZ):まずは『顧客思考の仕事術』を執筆をされた理由を教えてください。前著『カテゴリー戦略』と比べて、顧客に向き合う戦術に特化していると感じました。
田岡:狙いは大きく2つあります。まず1つ目は、「顧客理解が重要だ」という認識は浸透した一方で、「じゃあ実際に自分はどう動けばいいのか」「組織にどうインストールすればいいのか」という具体的な一歩が踏み出せないまま、時間が過ぎている方が多いと感じていたからです。現場のマーケティングマネージャーやメンバーが実行に移すためには、より具体的な思考や行動指針が必要だろうと考えました。
もう1つは、AI時代という背景です。SNSを開けば「AIで自動化しましょう」「AIでリサーチを効率化」という話が溢れていますが、本当にそれでビジネスの売上が伸び、事業が成長しているでしょうか?
結局、また便利そうな「手段」に惑わされている人が多いのが現状だと感じています。このような時代だからこそ、ビジネスの根幹である「Who・What・Why」、そして「When」を深く理解し、顧客の課題を解決しながらビジネスにつなげていくことが求められます。
AI時代に人が惑う今、そのための指針を示したいと考えました。表紙に「AI時代、お客様に会いに行く人が生き残る」というメッセージを掲げているとおり、平たく言えば、「外に出ましょう」と伝えている本です。
MZ:戦略を頭で理解するだけでなく、現場のメンバーが自ら動き出すための「行動の実践書」なのですね。
田岡:そうです。マーケティングマネージャーから「メンバーに顧客理解を促したいとき、2冊目の本が伝わりやすかった」という声をいただきました。「チーム全員で購入して共有している」「研修の教材として活用したい」という声も増えており、すべてのビジネスパーソンが「相手の視点から逆算して考え、足を動かす」ための実践書として機能している手応えを感じています。
顧客の「言葉はフェイク、行動はファクト」
MZ:本書では「顧客思考」というテーマを扱っていますが、田岡さんの考える「顧客思考」の定義について改めてお聞かせください。
田岡:顧客思考とは「お客様視点で、お客様の課題を解決し、価値を届けていくこと」です。
私たちはつい「うちの商品やサービスの強み・価値は何だろう」と自社起点で考えてしまいがちです。しかし、強みや価値はお客様の中にしか存在しません。したがって、顧客が定義できず、顧客の課題が曖昧なままだと、そもそも価値を提供することは不可能です。
重要な点は「お客様の視点から逆算して考えていく」ことです。自分たちから顧客へ矢印を向けるのではなく、顧客の側から自社のプロダクトやサービスを見る姿勢が欠かせません。
MZ:顧客を理解しようとするとき、多くのマーケターは「アンケートを採る」「インタビューで直接話を聞く」といったアプローチをしますが、それだけでは足りないのでしょうか?
田岡:そうですね。「言葉はフェイク、行動はファクト」という考え方が大切です。
人は自分の困っていることや欲しいものを、正しく言葉で表現できません。悩みを完璧に言語化できる人なんて、ほとんどいないわけです。それなのに、顧客が口にした言葉をそのまま鵜呑みにして何かを作っても、本当の意味でお客様のためにはなりません。
世の中の事象で、言語化されているものは全体のわずか1%以下だと思っています。残りの「言語化されていない部分」にこそ、ビジネスのチャンスがある。私たちは顧客の「言葉」ではなく「実際の行動」を見て、そこから仮説を立てなければなりません。
言語化されたデータだけをAIに学習させて対話していても、本当に求められているものには決して辿り着けないのです。だからこそ「現場に行こう、外に出よう、お客様に会おう」と繰り返しお伝えしています。
