「シアリス」OTC化が挑む、社会を変える「3つの挑戦」
エスエス製薬は2026年7月31日から、ED治療薬「シアリス」をOTC医薬品として順次販売開始する。市販薬としてED治療薬が認められるのは国内初となる。
これまで日本のスイッチOTC(処方薬から市販薬への転用)は、風邪薬や痛み止めなど「症状をゼロに戻す薬」が中心だった。ED治療薬のような「QOL(Quality of life)を向上させる薬」が処方箋なしで買えるようになるのは、日本のセルフメディケーションの歴史を変える出来事といえる。
エスエス製薬代表取締役社長の元島陽子氏は、「シアリス」の発売を「社会を変える挑戦」と位置付け、3つの領域に取り組むと語る。
トヨタ自動車、ユニリーバを経て2022年にエスエス製薬入社。マーケティング本部長として国内ブランド戦略・イノベーション領域を統括し、2026年4月に代表取締役社長に就任。
1つ目の挑戦は、「製品を届けること」。これまで診察へのハードルの高さから治療に至らず、海外個人輸入や偽造品に頼っていた層に、正規品という安全な選択肢を提供する。
2つ目は「安全な販売体制を整えること」。LINE公式アカウントで購入前の問診と購入制限を管理し、購入窓口となる薬剤師のトレーニングも行うことで、責任ある販売体制を整備する。
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そして3つ目が、「EDへの偏見と社会の意識そのものを変えること」だ。そのために同社は、「EnD the joke」プロジェクトを立ち上げた。EDが年齢や体だけでなく、心と社会全体に及ぶ課題であることを正しく伝える狙いだ。
国内でED(勃起不全)に悩む男性は約1,400万人、成人男性の2人に1人に上るが、自覚症状がある人の9割が治療を受けていない。放置されがちだが、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患のリスクが隠れていることもある。
では、なぜ「EnD the joke」と銘打つのか。日本では、EDを飲みの場のネタや自虐に消費する文化がある。同社調査をまとめた『ED白書』によると、20代日本人男性の35.4%がEDについて他者に茶化された経験があるという。元島氏はこの文化を、当事者が本音を話せなくなる「自己防衛の行動」の結果だと捉えている。
「これら3つを達成した先に、社会にとって良いことが起きると信じています。そうでなければ、私はここに立ちません」(元島氏)
EDと女性のキャリア。一見異なる課題を貫く「壁を壊す」思想
EDという男性の課題に切り込む同社だが、その根底にある「見えない痛みに向き合う」姿勢は、解熱鎮痛薬「EVE(イブ)」の展開にも共通する。2024年3月に始動した「BeliEVE PROJECT」は、女性の「キャリアにおける見えない痛み」に踏み込んでいる。
同プロジェクトの出発点は、EVEが実施した女性のキャリア意識調査だ。新卒時は男女ともに「キャリアアップしたい」というモチベーションがあるが、5年目を分岐点に差が広がり、10年目には多くの女性がキャリアを諦める傾向にある。このギャップを、同社は「ジェンダーキャリアギャップ指数」と定義し、ゼロにすることをゴールに掲げた。
具体的なアクションは、女性個人・企業・社会の3つのレイヤーに設計されている。
個人に対しては、「話せない」を解きほぐす仕組みを提供する。2026年3月には、大規模調査とメンタリングのノウハウを基に、LINE上でAIがキャリアの悩みに応える「BeliEVE Mentors」をスタートした。

企業に対しては、女性活躍を仕組みとして根付かせることを目指す。まず、自社の人事制度の見直しを経て、女性のキャリア形成を支援する「BeliEVE Mentoring Program」を設計し、パートナー企業向けに無償で提供。ウエルシア薬局とも協働し、女性店長比率向上を目指している。
社会に対しては、大規模カンファレンスなど認知と議論の場を継続的に設け、社会全体の関心を引き上げている。
なぜエスエス製薬は、社会を本気で変えようとしているのか。次ページからは、「イメージ向上のためにやっているわけではない」と語る元島氏へのインタビューを通じ、その思想と経営判断のロジックに迫る。
