トピック3:広告の「買い方」がエージェント前提に変わり始めた
ここからは少し業界の裏側の話になる。広告を「買う側」——世界の大手広告代理店グループ(業界ではHoldCoと呼ばれる持株会社)でも、AIエージェントが枠を買い始めた四半期だった。
Omnicomのエージェンティック広告バイイングが本格稼働、メディアサプライチェーンを圧縮
— 杉原剛@デジタル広告最新ニュースを毎日最速要約『プラットフォームの思考回路』 (@sugiharg) April 29, 2026
1. エージェンティックバイイングの実用化
a. Omnicomの自社プラットフォームOMNIを通じ、一部クライアントのルーティン的なメディアバイイングにエージェンティック広告を本格導入
b. CTOのPaolo…
象徴的だったのが4月末のOmnicomの決算説明だ。同社は、AIエージェント同士がやり取りして広告枠を買う「エージェント・トゥ・エージェント」の仕組みを、一部のクライアントで実際の出稿に使い始めたと明かした。
狙いは、広告主と媒体の間に何層も連なる仲介を圧縮し、媒体と直接取引する比率を高めることにある。つまり、これまで人手と中間業者が担っていた「枠を探して買う」工程を、AIが直接こなし始めた、ということだ。
業界標準化の動きと、進行する大規模再編
ホールディングカンパニーが「バイヤーエージェント」標準化で先陣争い:WPPとHorizonが同日発表
— 杉原剛@デジタル広告最新ニュースを毎日最速要約『プラットフォームの思考回路』 (@sugiharg) June 18, 2026
1. WPP Mediaが動画広告枠買付の「バイヤーエージェント」業界標準のプロトタイプを発表
a. Comcast/FreeWheel、Disney、Fox、NBCUniversal、Netflix、Paramountら主要サプライヤーおよびIAB Tech…
6月にはWPP Mediaが、TV・動画領域で「バイヤーエージェント」の業界標準づくりのプロトタイプを公表した。Comcast/FreeWheel、Disney、Fox、NBCUniversal、Netflix、Paramountといった主要メディアや、IAB Tech Lab、Prebid.orgも巻き込み、買い手側エージェントと売り手側エージェントが安全に取引するための共通ルールを定義しようとしている。彼らはこれを、「20年前のプログラマティック登場に匹敵する変化」と位置づけている。
押さえるべきは、固有名詞の勢力図そのものより、2つの大きな流れだ。1つは、広告業界が今、大規模な再編期に入っていること(背景にはPublicisによるLiveRamp買収のような、データを軸にした大型M&Aがある)。もう1つは、その再編が「人が枠を選んで買う」から「AIが枠を探して買う」への移行と同時に進んでいることだ。業界の構造そのものが、エージェント前提に組み替わりつつある。
もっとも、こうした過熱ぶりへの自己ツッコミも同時に起きている。カンヌ前にPublicisが各社の「エージェンティック」喧伝を茶化す風刺動画を公開し、話題になった。号令の派手さと、地に足のついた実装の進み方との温度差を、業界自身が自覚し始めている表れとも言える。
日本の広告主・代理店にとっての論点はこうだ。買い手側がエージェント化したとき、運用担当者の役割、代理店のフィー構造、そして媒体側から見た「誰が買っているのか」の見え方が、いずれも変わりうる。海外で標準づくりが進むこの動きは、国内に波及するまでに時間差はあるが、方向としては避けがたい。
まとめ・次四半期で注目する3つのポイント
Q2を貫く問いは、1つに集約できる。「エージェント前提の広告において、『標準』を握るのは誰か」だ。OpenAIは売り手側の新しい面を、Googleは入口と運用を、大手代理店グループは買い手側の取引を、それぞれエージェント前提に組み替え始めた。バラバラに見えた動きは、主導権争いという1本の線でつながっている。
次四半期に注目したい点を、3つ挙げておく。第一に、ChatGPT広告の計測環境が整い、日本でも事例が出揃ってくる局面だ。どの業種で、実際にどれだけの効果が出るのか——現状は米国の先行データと自己申告値に頼るしかないが、国内の運用が積み上がれば、業種ごとの向き不向きや費用対効果の解像度が一段上がる。ここが見えてくると、「試す媒体」から「予算を張る媒体」へ判断できる企業が出てくる。
第二に、Googleの検索AI化がどこまで深化するかだ。米国ではAI Modeに広告が入り、運用がキーワードから意図へと移り始めた流れが、次の四半期にどこまで進むか。そして、日本を含め他国への展開はいつ頃行われるのか。回答の中の広告フォーマットが固まり、AI起点の流入が主流になれば、検索を前提に組んできた集客設計の見直しが、多くの企業にとって避けられない論点になる。
第三に、日本発の動きだ。ここまで挙げた変化は、いずれも海外プラットフォームや海外の代理店グループが主導してきた。そろそろ、日本の広告主・代理店・媒体の側から、エージェンティック広告への取り組みを明確に表明する早期の動きが出てきてもいい頃だ。海外の標準づくりに追随するだけでなく、国内の商習慣や取引構造に合った形を、誰が先に示すか。ここに注目したい。
