データ基盤ありきのマーケティングが主流に
ネクストスケープは、SIerとしてITソリューションの企画提案・開発・保守を行っている。渡邊氏は同社DMP本部の本部長。リクルートでのディレクターを経て、現在はクライアントのデジタルマーケティングの戦略立案などを担当する。ルイス氏は、CMSのKenticoやMAのMarketoをはじめとする海外ソフトウェアの市場調査を担当。青木氏はアーキテクトとして、Sitecoreやデジタルマーケティングツールの導入や開発支援を行っており、マイクロソフトとSitecoreからMVPに選出された実績も持つ。一方、Microsoft Azure(以下、Azure)のMVPに選出されている上坂氏は、エバンジェリストとしてAzureに関するサービス、ノウハウをクライアントや社内に伝えている。
MarkeZine編集部(以下、MZ):Azureに関する、貴社での取り組みを教えてください。
渡邊:現在マーケティング領域は広がりを見せていて、ツールを1つ導入して最適化しただけでは、効果を最大化するのは難しいです。そこで必要になるのは、各ツールを基盤でつなぎ連携を図ること。そして、Azureがその役割を担えると弊社では考えています。具体的には、ビッグデータの解析やデータをつなげるためのDMP基盤として活用しています。
MZ:DMPの最近の動向はいかがでしょうか。
渡邊:BtoB・Cの企業共にニーズが高まってきています。これまで、Sitecoreなどを導入し活用することに手いっぱいとなる企業が多かったのですが、最近ではツールが簡易に使えるものが増えたこともあり、複数のツールを使いこなす企業も増えています。例えば購買履歴などのデータをもとにメール施策を行うといったことも当たり前になっていて、そこでデータを1つにまとめることができるDMP基盤は今後ますます有効になると考えています。
コンテンツからコンテクストマーケティングの時代へ
MZ:海外ではどうですか。
ルイス:海外では、コンテンツマーケティングをさらに発展させたコンテクストマーケティングがトレンドになっています。コンテンツマーケティングでは、サイトに誰が訪問しても同じメッセージを掲載するのが一般的でした。しかしコンテクストマーケティングは、ユーザーの目的に合わせたメッセージを最適なタイミングで届けるところまでを考えます。
また、コンテンツマーケティングの登場後、クラウドソーシングなどを駆使してコンテンツを多量に制作することが容易になりました。その結果、コンテンツが溢れかえっているのが現状です。そのため、コンテンツを適材適所に活用するコンテクストマーケティングが必要となるのです。
MZ:コンテクストマーケティングを実現するために、貴社ではどういったソリューションを提供していますか。
ルイス:弊社では、SitecoreやKenticoというマーケティングオートメーションに特化したCMSの導入支援を行っています。コンテンツの編集を容易にする機能はもちろん、コンテクストマーケティングに関する機能も備えています。あらかじめペルソナを設定して、訪問者のページ遷移を分析し、ペルソナとの親和性が高い訪問者にはペルソナごとに設定した広告やメール、パーソナライズされたコンテンツを提供するといったことができるのです。
このようなCMSもAzureのクラウド基盤で構築することで、DMP基盤として活用できるのはもちろん、他ツールとの連携を容易にしてくれるといったメリットもあります。
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クラウドがマーケターの負担を下げる
MZ:まだツールを使いこなす余裕がないマーケターもいると思いますが、いかがですか。
青木:それは課題としてあります。特にマーケティング専門組織が少人数だと大変ですね。例えば我々のクライアントのカルチャー教室では、マーケティング組織が2~3名というケースもあります。
ただ、ツール内の機能を取捨選択すれば解決できると考えています。先ほどのクライアントでは、Sitecoreの持つ機能から取捨選択して作業を効率化し、講座のレコメンデーションを機械学習ソリューションのAzure Machine Learning(以下、Azure ML)で行いました。Azure MLを使った結果、PVや滞在率が10%も上がり、自動でレコメンドされるので運用工数を下げることもできました。
MZ:Azureを基盤としてKenticoやSitecoreを導入することで、自動化が進みマーケターの負担が軽減されるんですね。
青木:クラウドを基盤にすることでデータ連携が簡単にできるというメリットがあります。先述のカルチャー教室では、もともとはデータ基盤としてAzureとSitecoreを採用しており、Azure MLの活用は後から始めました。Azureが基盤だったことで、スピーディーかつ容易にデータ連携が可能になりました。
MZ:カルチャー教室がAzureを導入するに至った理由を教えてください。
青木:クラウド環境にすることで、サーバーのスケールを柔軟に上げ下げしたいというニーズがあったからです。カルチャー教室のサイトでは、四半期に一度、講座を一斉公開する日があり、その日はサイトに急激な負荷がかかります。オンプレミスの環境だとサーバーの処理能力にバッファをとっておく必要がありましたが、Azureのようなクラウド環境なら、その負荷がかかる瞬間に合わせてスケールを上げることが可能です。この柔軟性は、短期的なキャンペーンで急激にサイトPVなどが上がりやすいマーケティング領域においては、とても魅力的かと思います。
機能拡充がスピーディーなのも魅力
MZ:Azure MLでコンテンツのレコメンデーションを行うに至った経緯を教えてください。
青木:Azureの導入当初から、レコメンドを使いたいという要望はあったのですが、その当時Azure MLが機能として存在しませんでした。しかしサイト公開から1週間後に、Azure MLが正式にリリースされたため、導入に至りました。この時に、Azureを基盤にしていると機能が次々と拡充されるというメリットも感じましたね。
MZ:そうした機能拡充のスピードは速いですか?
上坂:様々な機能が日々アップデートされています。マーケティング領域で最近役立つ機能としては、Web閲覧履歴だけでなく、コールセンターの履歴など様々な形のデータをつなげることが容易になりました。
これまでは、データをつなげる場合、それぞれのデータを加工する必要がありましたが、現在は加工することなくつなげることができます。
青木:デジタルマーケティングではWebログが重視されることが多いですが、Webサイトにコンテンツが少ない場合、実はあまり価値がない。企業によっては、コールセンターや実店舗など、別のデータなら多く持っているケースもありますよね。本来であればオンライン・オフライン問わず全てのデータをクラウド上で管理して、マーケティング施策に活かすのが理想なので、この機能拡充もマーケターには有益かと思います。
渡邊:実際にWebの購買履歴だけでなく、実店舗での接客データもDBにためておき、それをECサイトのレコメンドに反映して売り上げを伸ばしたクライアントもいます。
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全てのデータ連携に携わるハブに
MZ:他のツールとの連携が簡単とのお話がありましたが、連携はどのように行うのですか。
青木:フォーマットを気にせずデータをクラウドに上げる、これだけです。その後はAzure MLなど、活用したいツールと連携するだけなので、本当に簡単です。
ツールを導入すると、他社ツールに乗り換えたいケースもあると思います。ただその際、ツールを解約すると今までのデータが失われるため乗り換えできないといったジレンマが発生します。しかし、クラウドにコアデータを置いておけば、リプレイス時のリスクを防ぐことが出来ます。
MZ:海外でもツール同士の連携はスタンダードになっていますか。
ルイス:連携を簡単にする動きは進んでいます。例えばKenticoの場合、他社のCRMと一緒に使うケースが多いということで、Kentico自身が連携用のコネクタを開発しています。他ツールと連携しやすいことで、さらに多様なデータを統合できるメリットがあります。
MZ:ツールベンダーも、連携のしやすさを重要視しているのですね。
上坂:クラウド上でツールとツールをつなぐコネクタは数多くありますが、基幹データは、基本的に何かしらのツールを導入しないと蓄積できません。ただ、企業が保有するデータは、ツールに依存したものだけではないと思います。特に独自で蓄積してきた社内データを連携できなければデータ活用にならないので、データ間のハブとしてAzureが使えるというのは魅力ですね。
効果の最大化を、できるだけ手間なく
MZ:最後に今後の展望、またマイクロソフトへの要望があれば教えてください。
渡邊:どんなツール、基盤でも同様ですが、活用して利益や売上に寄与しなければ導入した意味がありません。我々としては、結果を出すところまで支援を行っていける存在になりたいと考えています。とにかく様々なツールが発達してきているので、弊社もナレッジを蓄積してより“結果の出せる”企業を目指します。
ルイス:日本では、海外に比べて新たなツールの情報が入ってくるのが遅くなってしまうのが現状です。私の役割としては、早く海外情報を日本のクライアントに伝え、認知していただくことも大切だと思っています。
青木:現在、ツールはすごく高機能になっている反面、使いこなすのも難しいため、我々はクライアントの効果を最大化し、かつできる限り手間のかからない状態でツールを提供したいと考えています。そのためにAzureはすごく有効ですね、数多くの機能から、クライアントに最適なものを提供できるので。
上坂:マイクロソフトのサービスは、パートナービジネスやAzure含め、アメリカ主導で開発が進んでしまうので、日本のビジネスに合わない部分も正直にあります。そこを日本仕様にどう改善するか、という細やかさがあると嬉しいです。もちろん、弊社もパートナー企業として、日本市場にあったAzureの活用を、より多くの企業に実現できるよう協力していきたいと考えています。
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