※本記事は、2024年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)100号に掲載したものです
【100号特集】24社に聞く、経営構想におけるマーケティング
─ 「競争」から「共創」へ 日本マーケティング協会の新定義が示す、これからのマーケティングのあり方
─ 5つの柱でお客様の期待を超える マーケティングとイノベーションを実現する
─ 1年で大きく進化し「生活者に近づいた」味の素のマーケティング 新組織設置の狙いとその成果を聞く
─ 「マーケティング部も 営業部も存在しません」全社を巻き込むCX推進部がイーデザイン損保の経営を動かす
─ 目指すは「シェアNo.1」ではなく「唯一無二」、花王がマーケティング戦略を変えた背景
─ 「良いコンテンツを作れば自然と広がる仕組み」を目指して──「ABEMA」の経営とマーケティング
─ 苦境から回復、さらには飛躍を目指して。「お客様の実感価値」の解像度を上げるJTBのマーケティング
─ 生活者インサイトを捉えて新たな文化・市場を創造する 資生堂においてマーケティングが果たす役割
─ セブン-イレブン・ジャパンがマーケティング本部を新設 加盟店も含めた全社の“ハブ”を目指して
─ 「ファッションの『こと』ならZOZO」というイメージ醸成を目指す、ZOZOの戦略と取り組み
─ 常識破りの戦略で圧倒的な成長を。「KANDO(感動)ドリブン」で駆け上がっていくトリドールの構想
─ 価値の源泉を見出して社内にバトンをつなぐ 購入者と喫食者に向き合うニチレイのマーケティング
─ 「マーケティングの担う領域にボーダーラインは引かない」日産の経営を支えるパーパスドリブンな戦略と組織
─ 逆境から変革を成し遂げた富士フイルムグループ、パーパスを原動力にしたさらなる進化に向けて(本記事)
─ 6,200万ユーザーが利用するPayPay、既存ユーザーの推奨とLTV向上で更なる成長を
─ 唯一無二の商品で他社との差別化を図る三井住友カード 「老舗なのに新しい」企業イメージを育む
─ 目指すはMAU4,500万。メルカリの成長に欠かせない「海外需要の獲得」「特定カテゴリーの成長」
─ 楽器や音楽への知見を体験に転換し、新たな強みとする。ヤマハの「Make Waves」
─ 「OMOの推進」と「若年層の獲得」を着々と進めるユナイテッドアローズの構想
─ リクルートに聞く、経営とマーケティングの近接性。カギはボトムアップ型の組織
─ ROI重視で経営のプレゼンスを高める! 売上拡大を続けるSansanのマーケティング
─ 全社横断のマーケティング組織でDX支援を強めるNECの進化
─ マーケターがやるべきは「マーケティング」だけではない。パナソニックコネクト、企業変革のドライバー
─ 唯一無二のユニークネスを顧客起点で事業に繋げる富士通、パーパス起点の事業変革×マーケティング
─ 「お金を前へ。人生をもっと前へ。」どこまでもミッションドリブンなマネーフォワードのマーケティング
創業90周年の富士フイルムグループが掲げたパーパス
──デジタル化にともない写真フィルムの需要が急速に減少したことを発端に、富士フイルムグループは2000年頃から事業の多角化を推進。成長が顕著な「ヘルスケア」「マテリアルズ(高機能材料)」の事業領域への投資を強化するとともに、「ビジネスイノベーション」「イメージング」領域においてもグローバルでビジネスを拡大し、2023年度は過去最高の売上を更新する見込みです。
2024年に創業90周年を迎えたことを契機に、富士フイルムグループのパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」も発表されています。まずは、グループパーパス策定の背景からお聞かせいただけますか。
事業領域が広がる中で、富士フイルムブランドの一貫性を保つために、数年前「ブランドガイドライン」を作りました。それ以降、社内外と“富士フイルムらしさ”を共有するためには、やはり「グループ共通のパーパスが必要なのではないか」という議論が持ち上がるようになりました。
ただパーパスを作るということは、言ってみればパンドラの箱を開けるようなものです。「会社の存在意義は何か」を自問自答し、パーパスを言語化・共有することからはじまり、従業員の皆さんの納得感を得ながら、パーパスを各事業や現場に実装していくなど、その浸透や実践には膨大な労力が伴います。
そして、既に企業理念やミッションを掲げている中で「本当にパーパスは必要なのか」という議論も重ねた上で、創立90周年を間近に控えたとき、その先の未来を視野に入れ「今こそやるべきだろう」とその策定に踏み切った形です。多様な事業領域を持つ富士フイルムグループとして、従業員73,000人が共通して目指せる「フラッグ(旗印)」が必要とも考えました。従業員の共感を得ながらパーパスを作っていきたいという思いから、多種多様な従業員で構成されたプロジェクトチームを作りました。
──プロジェクトチームを中心に、どのようなプロセスを経てパーパスを策定されましたか?
グループ会社も含め、世界中の従業員にじっくり時間をかけて、「富士フイルムグループの強み・DNA・今後進むべき方向性」についてインタビューしました。すると、大きく3つのキーワードが浮かび上がってきたんですね。
1つ目は「変革」という要素。富士フイルムグループは2000年頃の創業喪失の危機をくぐり抜けた、変革を成し遂げてきたと自負する従業員が多くいました。その私たちの変革を後押ししたのが、2つ目の要素である「技術」です。写真事業で培った技術を医療や化粧品など様々な分野に活かす形で、会社を変革させることができたのです。
そうしたヒストリーやDNAを踏まえた上で、多くの従業員から出てきた言葉が、3つ目の「笑顔」でした。写真事業を通して大切にしてきたのは人々の笑顔で、今まで製品やサービスを通して多くの人たちの笑顔を生み出してきました。その思いを再発見し、輪郭をクリアにしたのが今回の「地球上の笑顔の回数を増やしていく」というパーパスです。
迷うことなく満場一致でこの言葉に決まりました。決して理想を掲げ未来だけを見るだけでなく、また過去を振り返るだけでなく、ずっと大切にしてきたものの延長に笑顔の未来はあるのだと考えました。その意味でも富士フイルムらしいパーパスになったと思います。