山洋電気に「デマンドセンター」を作る決意
BtoB企業である山洋電気では、長年「デマンドジェネレーション」に取り組んできた。きっかけは、マーケティング部の小峯氏による自発的なアクションだった。
「以前は、見込み顧客の獲得からアフターフォローまですべて営業が担う、野球で例えると先発完投型の営業スタイルが中心でした。しかし、それでは営業に求められる能力やスキルの幅が広く、やることも多いため、とても大変です。そのため、案件の芽を創出する“デマンドセンター”を作ろうと決心し、マーケティングの仕組みをゼロから構築しました」(小峯氏)
新規案件創出においては、点ではなく面で見込み顧客をフォローすることで関係性を強化していく必要がある。小峯氏は、まず案件創出のプロセスにおける前半の工程をマーケティングが、後半の工程を営業が担当するかたちで仕組み化を進めた。

見込み顧客獲得や育成、そしてテレマーケティングなどによる案件創出までをマーケティングが、その後の営業・受注に関わる活動を営業が担当している。
「また、案件創出の工程では、プレセールスとして案件を深掘りするメンバーもいます。そこで有望な案件化ができたら、営業に引き継ぎます」(小峯氏)
「情報の欠落」が発生 変革で押さえた3つの要素
デマンドセンターを支えるシステムの構成は、2022年時点では、MAで個人情報やメールを、SFAで顧客情報や商談の進捗状況を管理し、BIにそれらを含む様々なデータを連携して分析するかたちになっていた。一般的なやり方ではあるが、小峯氏はいくつかの課題を感じていたという。

「システムをまたぐごとに情報が少しずつ欠落するという課題がありました。たとえばテレマーケティングの担当者がお客様から電話でヒアリングした内容を次の担当者に引き継ぐ際に、文章でまとめるだけでは温度感が伝わりません。そうすると、どのくらいの有望度かという感覚がわからず、受け取った営業も適切なフォローが難しいという課題がありました」(小峯氏)
また、当時使用していたMAは社内のメンバーで扱うのが難しく、外部の専門家からサポートを受けていた。そのため、新規の施策を検討するたびに予算や実行スピードが課題となった。
小峯氏は、こうした課題をクリアしていくために「現場で使われるシステム」「機動力を上げる仕組み」「自分たちでやりきるマインドセット」の3つの要素が重要だと考え、取り組んでいった。
全社的なHubSpot導入で「温度感の引き継ぎ」が可能に
そこで、2023年から、段階的に現場のシステムを変えていった。まずは従来のMAをやめ、扱いやすく、コストが抑えられるという観点で選んだHubSpotを導入。これにより、MA、テレマーケティングツール、Excelで管理されていたデータを1つのプラットフォームで管理できるようになった。

そして2024年10月には、SFAと問い合わせ窓口もHubSpotに置き換えた。以前からSFAは山洋電気の海外拠点でも活用していたが、それらもすべてHubSpotに統合している。これにより、プレセールスや営業、問い合わせ窓口まで一元化され、マーケティングと営業の連携がさらに強化された。

「HubSpotを導入したことで、お客様に電話をした、メールをした、あるいはWebページが見られたといったログを、チーム全員で共有できるようになりました。電話もHubSpotの通話機能でかけるため録音が残り、次の工程の担当者が音声を聞くことで情報の欠落がなくなり、温度感を引き継げるようになった点が非常に良かったです」(小峯氏)
以前のCRMは構造化データを蓄積するものだったが、HubSpotでは音声などの非構造化データも蓄積できる。また、問い合わせ窓口の対応も共有されるので、同じ顧客が別々の窓口に連絡してきた際にも一貫性のある対応ができるようになった。
「営業やサポートなど、他の部門のメンバーがお客様とどういうコミュニケーションを取っているのかHubSpotで見ることができるため、顧客理解が深まり、それらを考慮したうえで効果的な動きをとれるようになりました」(小峯氏)
AIによるコンテンツ生成で効率的に案件創出額を5倍に
HubSpotは情報を一元管理できるだけでなく、マーケティング活動に有用な様々な機能を備えている。たとえば、メールマガジンをセグメント別に配信できるため、狙いたい業界や売りたい製品別の内容で配信したり、営業部が顧客向けに配信したりできるようになった。それまでは日本語版と英語版のメールマガジンを月1回ほどのペースで配信していたが、配信本数が大幅に増えることになった。

WebサイトにもHubSpotのポップアップやフォーム機能を活用し、流入はもちろん資料ダウンロードや問い合わせといったコンバージョンへとつなげている。また、2024年からはグローバルマーケティングの取り組みを強化し、マーケティングサイトと製品サイトが10言語対応になった。それら各国のフォームもHubSpotで作成している。

さらにHubSpotでワークフローを組み、フォームを受信するとテレマーケティングの担当者に通知が行き、1時間以内にファーストコールをかけてフォローすることも可能に。
同社ではAIも活用してコンテンツ作成の時間も大幅に削減した。こうした機能により、UPS(無停電電源装置)の施策ではコンテンツ1本あたりの工数が22時間から6.4時間に減り、年間の作成本数が4本から11本に、施策件数が4件から16件に、メール配信数が23回から118回へと大きく増加した。

「施策を内製化できるようになり、施策数は大幅に増えました。セグメント配信では、よりお客様にマッチしたニッチな情報を送ることができます。アイデアがあればすぐに試し、違ったと思えばすぐに変え、試行錯誤しています。HubSpotもAI機能を強化していますよね。コンテンツ生成機能もあり、自社らしいコンテンツとなるようAIにトンマナを登録することができるなどとても期待値の高い機能です」(小峯氏)
「どれだけ高度で最先端の機能が搭載されたツールであっても、現場の方々に使われないと成果に貢献できません。そのため、HubSpotは現場での使いやすさを重視して開発しています」(土井氏)

こうした仕組みを活用して2023年はUPSのマーケティングに注力したところ、前年比で新規案件の創出金額が5倍、件数が2.4倍という成果が出た。
「HubSpotの導入で、機動力が上がったおかげです。また、以前はシステムが分断されていたため追えなかった成果がカウントできるようになったのもあると思います。やればやるだけ成果が出ることを、メンバーみんなで実感できたのが良かったです」(小峯氏)
なぜ「営業部=マーケ部のお客様」と考えるのか
変革はシステムの刷新だけで行えるものではなく、現場の人間のマインドセットも変えていく必要がある。小峯氏は、営業部のスムーズな連携と、マーケティング部の心理的な負担軽減の観点から、「営業部=マーケティング部のお客様」とマインドセットを変えた。
「マーケティングのメンバーには、『営業に対してリードの押し売りにならないよう気をつけよう』と伝えています。私たちもリードを渡すまでに大変な努力をしてきているので、これだけ頑張って獲得したのに……という気持ちになってしまいがちですが、マーケターが考える良いリードと営業が欲しいリードはイコールとは限りません。
そうしたやりとりのなかで、営業は私たちのお客様で、マーケティングは提供しているサービスだというマインドセットでいることで、マーケティングは気持ちが楽になり、営業にとことん寄り添うことができます」(小峯氏)
同社では営業とのコミュニケーションを円滑にするためにも、HubSpotのメルマガ機能も活用している。マーケティングがどのような活動をしたか、営業との連携で上げた成果などを掲載した社内メルマガを発行しているという。
「HubSpotを使って配信しているので開封確認もでき、社内で誰が読んでくれたのかわかります。メールマガジンによる情報共有で、『自分のお客様にこんなメールマガジンを送りたい』『一緒に新規開拓活動をしたい』と要望をもらえることも」(小峯氏)

またプレセールスがマーケティングファネルとセールスファネルをつなぐパイプの役割をし、取りこぼしがないよう営業にパスしていく仕組みを構築した。
「プレセールスは、元営業のメンバーから、テレマーケティングにまで至ったリードをもっと深掘りしたいという声が上がって、仕組み化したんです」(小峯氏)
その結果、2023年に営業がSFAに登録した商談において、「きっかけはマーケティング」という回答が7.5倍にも増えた。マーケティングが担っている役割の重要性が、社内で浸透したことがうかがえる。
ぶつからず、立ち止まらないための2つの考え方
課長としてマーケティングチームのマネジメントも担う小峯氏が、大事にしている考え方が2つあるという。1つは、「視点・視野・視座を自由自在に操る」ということ。同じ会社内でも部署が異なると話が噛み合わないことがある。そうしたズレを、視点の違いを意識することで解消していく。

「マーケティングは俯瞰で、営業は個にフォーカスして見る傾向があるため、お互いに話が噛み合わないことがあります。しかし、それは見方が違うだけで、案件創出という目的は同じです。私たちが視点・視野・視座を変えることで、営業とぶつからず、寄り添って取り組めるようになります」(小峯氏)
もう1つ大事にしているのが、「定数と変数」の考え方だ。定数は自身で変更できない数値で、変数は自力で変えることができる数値を指す。変数の部分を見つけ、自分で変えられる範囲から変革していくことが大事だという。

土井氏と小峯氏は、取り組みとHubSpotが果たす役割について次のように語り、セッションを締めくくった。
「小峯さんは前向きで、楽しそうにマーケティングの話をされるので、そういう姿勢もチームに良い影響を及ぼしているのではないでしょうか。『現場に使われるシステム』『機動力を上げる仕組み』『自分たちでやりきるマインドセット』の3つが変革に必要な要素だとうかがいました。ツールを提供する側としても、その実現のためには、統合したシステムをベースに3つが連鎖して機能することが大事なのではないかと実感しました」(土井氏)
「普段はあまりこういうことは言わないのですが、一連の取り組みが実現できたのは、本当にHubSpotのおかげです。『自分たちで実施できる』という感覚を掴めたことで、現場のマインドセットも大きく変わりました。素敵なツールで、心からおすすめできます」(小峯氏)
顧客との「温度感」を途切れさせない仕組みを、自社でも再現するには
記事で紹介した取り組みをより具体的に知りたい方へ。マーケティング活動におけるデータの連続性がもたらす価値を実際のシナリオで確認しながら、AI活用による次のステップまで体感できるアーカイブ動画を公開中です。【無料で視聴する】

