難解なサイエンスを生活者に翻訳する伝え方
R&D主導のプロダクトにおいて陥りがちな罠は、専門的で難解なサイエンスをそのまま消費者にぶつけてしまうことである。「老化細胞」という言葉は医学的であり、一歩間違えれば消費者に恐怖感や心理的なハードルを与えかねない。ファンケルはこの課題に対し、巧みなコミュニケーション設計で応えている。新CMに俳優の井川遥氏を起用した意図も、単なる知名度への依存ではなく、生活者の目線に立った「翻訳者」としての役割を期待してのものだろう。
発表会で井川氏は、製品を一言で表すならという問いに対し「細胞レベルの頼れる味方」と表現した。この言葉は、難解なメカニズムを、消費者が日常的に恩恵を感じられる直感的なベネフィットへと見事に変換している。
さらに、今回のコミュニケーション設計で注目すべきは、サイエンスの凄さを一方的に主張するのではなく、生活者の日常にいかに溶け込むかという「実用性」と「手軽さ」の強調である。ファンケルは長年培ってきた製剤技術を駆使し、必要な機能性関与成分を「1日1粒」という極めて簡便な形状に収めることに成功した。イベント内でも、忙しい現代人にとって1日1回の摂取で済む手軽さが、継続的な利用を支える重要なファクターであることが語られた。最先端の機能性を持ちながらも、摂取のハードルを極限まで下げるプロダクト設計と、それを自然体で伝えるクリエイティブの連動が、消費者の日常における習慣化を後押しする緻密な設計となっている。
※老化細胞(分裂が停止し、体内に蓄積する細胞)に着目してキンミズヒキの研究を行い論文報告された(PubMedおよび医中誌Webの掲載情報に基づく)
100億円目標。事業を牽引するフラッグシップを創る
「ウェルエイジ プレミアム」の成功は、ファンケルにとって単発の打ち上げ花火ではない。斎藤氏は、同製品をファンケル全体を牽引するフラッグシップ商品へと育て上げる構想を明らかにし、「2035年に売上100億円規模を目標に、継続して投資してまいります」と明言した。参考として挙げられたNMN市場の2031年予測が約300億円であることを踏まえれば、単一のプロダクトラインで100億円という目標がいかに野心的であり、同時に市場のシェアを大きく獲得しにいく強気の戦略であるかが読み取れる。
このビジネススケールの背景には、ジャーナリストの西沢氏が言及したマクロな経済効果への視座が存在する。老化を遅らせ、人々が若々しく活動できる期間が長くなれば、消費活動は活性化し、社会全体に巨大な経済効果が生まれる。つまり、老化研究に基づく製品の社会実装は、個人の健康寿命を延ばすだけでなく、マクロ経済の豊かさにも直結する事業活動だ。
総合研究所の渡邉氏は、「年齢だから仕方がないと諦めてしまうのではなく、いつまでも好きなことを楽しむ人が増えていき、年齢のことで悩む人をなくしていきたい」と今後の意気込みを語った。最先端のサイエンスに基づく強固なエビデンス、データから抽出された深い顧客インサイト、そして機能性を日常に落とし込むコミュニケーション設計。これらを高度に統合したファンケルの「老化への挑戦」事業戦略は、これからのヘルスケア領域のマーケティングにおいて、イノベーションをいかに社会実装し、巨大な市場へと育てていくべきかを示す、鮮やかなケーススタディとなっている。
