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Overture出身の先駆者たちの選択と次の一手

【上野×杉原対談】オーバーチュアがネット広告市場にもたらした衝撃/業界の歴史と未来を語る


 ネット広告の歴史の中でも、検索連動型広告の登場は1つのエポックメイキングだったといえる。その市場を切り開いたのが、オーバーチュア(現・ヤフー)だ。本対談では、かつてオーバーチュアの代表取締役社長であり、現在BuzzFeed Japanで同じく代表取締役社長を務める上野正博氏と、アタラ 代表取締役CEOの杉原剛氏に、検索連動型広告の黎明期においてオーバーチュアという会社が業界にどんな衝撃をもたらしたのかを聞いた。

オーバーチュアが業界にもたらした衝撃

 2017年の日本のインターネット広告費(媒体費+制作費)は1兆5,000億円を超え、今や総広告費の4分の1を占めるまでに成長・拡大している。しかしほんの数十年前、1999年の日本のインターネット広告費は241億円で、総広告費の約0.4%にすぎなかった(参照:富士通総研)。

 こんなに小さかった市場が急拡大した要因の一つに、検索連動型広告の登場がある。これによりインターネット広告は圧倒的なパフォーマンスや成果で、従来のマス広告とはまったく異なるマーケティングのやり方を確立できるようになったのだ。

 その検索連動型広告を、衝撃とともに世の中にもたらし、市場拡大を率いた一社がオーバーチュアだ。オーバーチュア出身者は、BuzzFeed Japanの上野正博氏、アタラの杉原剛氏をはじめ、アンルーリーの香川晴代氏、CriteoのGrace Fromm氏、Liftoff Mobileの天野耕太氏、パナソニック CNS社の山口有希子氏をはじめ、他にも多くの方が先見の明を持ってブランド、パブリッシャー、プラットフォーム、コンサルティングと様々な道を歩み、活躍している。

 この企画では、インターネット広告の市場が非常に小さな頃からその可能性に気づき、オーバーチュアという企業が急成長していた時期に同社で働いていた方たちにフォーカス。次に来るトレンドを的確に掴むヒントや、物ごとを決断する視点、キャリアの築き方を聞く。今回はオーバーチュアとはそもそもどんな会社だったのか、当時の世の中にもたらした衝撃について、BuzzFeed Japanの上野氏とアタラの杉原氏に尋ねた。

オーバーチュアとの出会いは疑問だらけ

――そもそもオーバーチュアとはどんな企業だったのでしょうか。ヤフーの買収、そして2009年に「Yahoo!リスティング広告」と名称が変わったこともあり、その社名に聞き覚えのない業界の若手の方も増えているかと思います。まずは、杉原さん、上野さんはどういうきっかけでオーバーチュアに関わることになったのでしょうか。

アタラ 代表取締役CEO 杉原剛氏

杉原:あまり偉そうなきっかけでもないのですが、私の場合は一般応募です。もともとIT業界で働いていたのですが、「転職したいなあ」と思っていた時に、ちょうど募集があったのです(笑)。入社は2002年9月でした。

 ただしオーバーチュアとのそもそもの出会いはその4年前で、1998年にアメリカ一周旅行に行っていた時、シカゴで開催されたカンファレンスでオーバーチュアの前身である「GoTo.com」が出展していたんですよ。「これは検索エンジンで、検索結果に対して広告主がお金を払うものだ」と説明されたのですが、当時はさっぱりその仕組みがわかりませんでした(笑)。

 4年後に入社した時、当時の会社ということで少し感慨深いものがあったのですが、入社当時はそれくらいの気持ちでした。ただ、入社して勉強すると、そのサービスやビジネスの凄さを実感するようになったのは事実です。2002年12月にサービスをリリースした後の成長は驚異的でした。

BuzzFeed Japan 代表取締役社長 上野正博氏

上野:オーバーチュアは、もともとは検索エンジンの会社だったんですよね。それが検索エンジンをやめて、広告技術の会社になったわけです。杉原さんがアメリカを旅行していた1998年、私は既にネット広告業界にいたんです。ダブルクリック(現・グーグル)の代表をしていたのですが、その当時、2つの事業がありました。

 1つは、今でいうGoogle AdSenseのような広告配信サービスです。もう1つは、国内大手通信会社が開発した検索エンジンに対し、キーワード広告を販売していた事業です。ただ、これはバナー広告だったので、いわゆる検索連動型広告とは少し違うものでした。たとえば「保険」と検索すると、その検索結果ページの上にバナー広告が出るというものです。1枠なので効率が悪いですし、そもそも日本人は、イメージよりも文字に反応しやすいんですよ。

 その後、Google AdWordsが日本に入ってきた前後に、ダブルクリックの株主だったトランスコスモスに移り、そこで広告事業を立ち上げました。その後オーバーチュア広告も扱うようになったんです。私の場合、オーバーチュアとの関わりでいえば、スタートは代理店ということになりますね。

 そんなオーバーチュアの日本法人ができるというので、話を伺いに訪ねたら、立ち上げに関わった方が「本格展開してくれる後継者を探している」とのことで、そして社長に就任したわけです。

初めてづくしの次世代広告商品の登場

――オーバーチュアは破竹の勢いで成長していたという当時の話を聞いたことがありますが、いったい何がすごかったのでしょうか。

杉原:いろんな意味で広告業界にとって初めてづくしのことが多く、衝撃的だったと思います。キーワードに対して入札で競い合うとか。あと、当時は広告在庫という概念はほぼなかったですね。インターネットユーザーもまだまだ増えていく状況だったので、検索数はどんどん増えていく。

 オーバーチュア内部の人からすると、収益の最初の土俵に上がるためには広告主に多くのキーワードに入札していただき、検索結果に多くの広告が出る、カバレッジというKPIを伸ばすのが最初は本当に大変でした。今考えると嬉しい悲鳴ですが(笑)。

上野:オーバーチュアはすごかったですよ。「これ、ものすごく効果がありますね」と、広告主の方から初めていってもらえた広告でした。

杉原:効果の良さは大きかったですよね。検索者が何かを探したい、買いたいというダイレクトな意図を、検索結果の上位で関連性の高い情報でお迎えするわけですから、それは効果は高かったです。

 しかも、検索連動型広告が出始めだったので、まだ誰も運用を知らないから、少し投資すればものすごい勢いで集客できた時代です。

 米国のネット事情をよく勉強していた広告代理店や広告主もいたので、うまく活用して驚くほどの成果を上げた企業もたくさんいましたよね。

 検索連動型広告が出始めだったので、まだ誰も運用を知らないから、少し投資すればすぐトップになれた時代です。もちろんそうした中でも、米国のネット事情をよく勉強していた広告代理店や広告主もいたので、うまく活用して驚くほどの成果を上げた企業もたくさんいましたよね。

上野:先見の明がある小規模企業もいましたね。屋形船の会社や、北海道の蟹販売事業者とか。

杉原:デジタルマーケティングへの取り組みの早かったリクルートさんや、外資系のEC系、旅行系などは投じる予算の大きさもすごかったですね。あの当時から、すでにAPIを使って内製システムを開発し、入稿・入札を自動化していたくらいでした。

上野:あの後から、市場が驚異的なスピードで成長しましたからね。おもしろい時代だったことは確かです。大変なこともありましたけど(笑)。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

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MarkeZine(マーケジン)
2018/08/28 12:39 https://markezine.jp/article/detail/28546

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