イベントがゴールではない
──自己紹介をお願いします。
山本:EventHubは主にウェビナー・カンファレンスといったイベント関連のマーケティング施策を支援するプラットフォームを提供しており、私は代表取締役を担っています。
イベントマーケティングについて特にBtoB業界では、ここ2~3年間でトレンドやお問い合わせの種類が変わってきています。オンラインの波を経て、新しい時代に入ってきた節目の時期なのだと思っています。
酒居:ユーザベースはイベントマーケティングについて以前より重視しており、コロナ禍前はオフラインイベントを中心に開催してきました。その後、コロナ禍の影響を受けてオンラインにシフト。2021年からは「NewsPicks Stage.」という新しい事業をスタートさせました。私は、この「NewsPicks Stage.」の事業責任者と、「FORCAS」など複数のBtoB事業のマーケティング領域を統括しております。
弊社は様々なプロダクトを展開しておりますが、イベントはプロダクトについて多くのお客様に知っていただくための「体験の機会」の1つとして位置付けています。つまり、イベントがゴールとは考えていません。
まずは徹底的に我々が届けたい人は誰なのか、訴求の対象を自分たちでクリアにしていくこと。そしてその方々がイベント体験の中で、プロダクトの必要性や可能性を感じていただけることが大切だと考えています。
単発のイベントでなく、複合的なジャーニー設計を
──企業のイベントにおける悩みとして、「イベントを行う意義の社内定義」「KPI設計」などが多いと感じます。
山本:前提として、企業さんの事業フェーズや目的によってアプローチは異なります。たとえばリード数をKPIにされる企業さんもいれば、ブランディングという文脈で開催される企業さんもいます。リードの数だけではなく、リードの質(MQL)で見ている方もいますね。
またイベントの位置付けによっても変わってきます。たとえばカンファレンスをブランディングの機会として、多くの潜在層のお客様にお越しいただくよう実施する。その後ウェビナーで特定の業種や特定のニーズ・課題に対して誘導し、細分化されたウェビナーを開催していく。このように単発のイベントだけでなく、全体で複合的に見たときのジャーニーを設計している企業さんが増えてきたように思います。
酒居:ユーザベースではBtoB領域で5つのプロダクトがあり、それぞれ月に1~2本、合計で10本程度のオンラインイベントを開催しています。プロダクトのフェーズによってイベントのテーマの作り方や立ち位置を変えていて、1回あたり1,000~2,000名にご視聴いただいています。
またオンラインにシフトしてからは、オンライン上の体験が我々の事業の肝だと認識しております。ですから、ここをもっと進化させるために、2021年からはイベントとは別のカテゴリーで「オンライン番組」としての番組制作もスタートしています。
彼らの関心事が肌感覚でわかるまで、解像度を徹底的に上げる
──イベントの集客において大切なことは何でしょうか?
山本:酒居さんが先ほどさらっと1,000~2,000名集客しているとおっしゃっていましたが、多くの方はまずイベントの集客面で苦戦していると思います。
酒居:各チームでいろいろと試行錯誤しながらやっているのですが、一番大切なのは最初に申し上げた「誰に届けたいか」だと思います。予算がなく、どう集客していけばいいのか悩んでいた時期に考えたのは、対象に対する解像度を徹底的に上げることです。
目の前にいるユーザーさんをイメージし、その方々が見ているメディアを見にいくようにしました。たとえばSaaS企業のマーケターが対象の場合、その方々が「普段Twitterで情報収集している」と聞けば、Twitterで「誰をフォローしているか」「何に対してリツイートやいいねをしているのか」などを見ていく形です。
すると徐々に、彼らの関心事が肌感覚としてわかってきます。そうなると、おのずと訴求すべきことやチャネルが具体的にイメージしやすくなるのです。
今オンラインイベントに求められる「テーマの細分化」
──イベントマーケティングは今、どのように変わってきているのでしょうか。
山本:2年前のコロナ禍直後は“オンライン”という新しい波が来て、オフラインに比べて集客しやすいこともあり、ウェビナーやカンファレンスの開催がものすごい勢いで増えていきました。
ただ、多くの企業さんが「イベント後にお客様との接点が持てない」「リード数や集客数が増えたのは良いけれども、商談化率にうまくつながっていない」といった課題にぶつかりました。そこで開催頻度を見直したり、質の部分における議論が始まったりした模索期が、この1年半ほど続いています。
2022年からは、オフラインでお客さんとつながることが選択肢として戻ってきました。それを踏まえたイベントマーケティング戦略や顧客体験設計を、多くの企業さんが考え直していると思います。
酒居:波に乗ればある程度集客できた状態から、オンラインイベントが大量にある中で「なぜそのイベントを選ぶのか」という理由がより重要になってきています。
コロナ禍前のリアルイベントでは、情報として腐らない普遍的・本質的なストック型のコンテンツを提供することを大切にしていました。しかしコロナ禍以降は、一時的にフロー型のコンテンツが求められるようになりました。より先が見えず、皆さんが暗中模索の時期には「今求められる○○」のような、最新情報へのニーズが高まったのです。
そして現在はまた状況が変わり、今度は「いかにテーマが自分に刺さるか」といった、イベントのテーマ性が非常に重要になったと思います。
かつては著名人を呼ぶことができれば、ある程度集客が見込めましたが、オンラインイベントの常態化によって、著名人や海外の方も呼びやすくなりました。そのため同手法は希少性が失われ、今はほとんど通用しなくなっています。
山本:オンラインの良さは、いつでもどこでも小さく回せること。参加者が10人でも、その10人に深く刺さるコンテンツであればそれでいいのです。だから今は「このセグメントの方にはこれを届けたい」と、テーマを深掘りして細分化する企業さんが増えていると感じます。
視聴者の能動的なアクションを引き出すコツとは?
──今回のセッションタイトルに「企業と顧客がつながる体験」とありますが、つながりや体験をどのように創出されていますか?
酒居:イベントをゴールとしてとらえるのではなく、あくまで入り口だと考えることが大事だと思います。
山本:おっしゃる通り、1回のウェビナーやカンファレンスでいきなり商談化を目指さないという視点は重要ですね。いろいろなコンテンツや体験を経て、最終的に商談化する流れを横断的に考えて分析・設計する企業が増えている気がします。
イベントマーケティングは、お客様が「課題ベースでつながる」ことができる点がポイントです。ある課題に関してみんなで話し合って、情報収集しながら共感して熱量を感じ合う。これは、意外と他のマーケティングの手法だと難しいのではないでしょうか。
──イベントにおいては、参加者の能動的なアクションを引き出すことが重要です。お二人はどのようにアクションを引き出されていますか。
山本:ミクロの話になりますが、たとえば司会者が最初からオーディエンスに問いかけたり、質問を拾ったりしながら一体感を作ることは大切です。弊社のプラットフォームには拍手機能が付いているのですが、そういった自分で操作できることや視聴者のリアクションが見られることを意識したコミュニケーション設計が重要になると思います。
酒居:弊社ではチャットを大切にしています。オンラインセミナーは、登壇者が語る内容やスライド資料だけがコンテンツだと思いがちです。しかし視聴者にとっては、視聴者のチャットの会話も含めてコンテンツとして成り立っています。
酒居:また、チャットを活用することによって、「危機感を健全に生み出すことができる」とも考えています。自分と同じような立場、同じような悩みを抱えた方々がたくさんいることがわかるだけでも、視聴者は孤独感から解放されると思います。同じ悩みを持つ人たちが、これだけ一生懸命考えていることを知れる場がチャットなのです。
我々のイベントではありがたいことにチャットで質問やコメントをいただけることが多いので、そういった方の熱量を感じることができる意味でも、チャットは有効なのではないでしょうか。
「ビジネスイベントだから」という先入観を取り払う
──最後にメッセージをお願いいたします。
山本:私たちはプラットフォーム側なので、より良い顧客体験の創出に皆様が集中できるよう、思いを持って取り組んでいます。また、BtoCマーケティング・映画やテレビ・YouTubeなど様々な場にも体験作りのヒントがたくさんあると感じています。異なるコンテンツから気づきを得てイベントに落とし込む意識をしてみても良いかもしれません。
酒居:BtoBのイベント領域においても、より人間性に目を向けられるようになってきましたね。これまではどうしても「ビジネスイベントはこうあるべきだ」といった「べき論」で考えてしまいがちでした。しかし、それはあくまでHowの1つであって、必ずしもそうでなくていいのです。
自分が顧客に何を共有したいのか、何を感じていただきたいのかによって、伝え方や体験設計はもっと柔軟に考えていく必要があると思います。
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