最初は「泣けるコンテンツ」を作りたかった
伊藤:実際に、橋本さんからクリエイターの眞鍋さんにはどのような依頼があったのですか?
眞鍋:最初は「泣けるコンテンツを作りたい」というご希望でした(笑)。
橋本:例えばYahoo! が「泣ける動画」を紹介すると瞬時に拡散しますよね。類似のことができないかと、当初はその心算で複数の制作会社や代理店に相談をしました。ですが、提案されるストーリーのほとんどが、誰かが死ぬというような、悲しさや同情を誘う内容だった。その路線はサービスイメージと合わないので、避けたいという思いがありました。そこで、色々と考えを巡らせたところ「泣く必要はないかな」と(笑)。
眞鍋:依頼を受けた際に橋本さんにもお話ししたのですが、実は感動系や泣けるコンテンツを作るには豊富な予算が必要です。なぜなら、演出・俳優・機材・音楽のすべてにおいて高いクオリティでないと、なかなか伝わらないのです。橋本さんのお話を伺って、テストマーケティング的な要素もあるとのことだったので、それならば「コストをかけずに感情を揺さぶるコンテンツ」を作ろう、とご提案しました。
橋本さんの場合は「オーガニックで再生回数が増える」「感情に訴えかけるコンテンツ」と、課題を明確にされていたので、こちらが企画を提案する際にとても助かりました。クリエイターの立場から申し上げると、「売上を上げるコンテンツを作ってほしい」と言われるのが、一番戸惑うのです。その少し手前の課題や目標を明らかになっていないと、プロジェクトが「課題探し」からスタートすることになります。
コンテンツは企業と生活者のハブになる
伊藤:「感情を揺さぶるコンテンツ」という言葉が出てきました。とは言っても、ドラマや映画ではないので、どこかに企業のメッセージが入ることになるかと思います。コンテンツと広告は両立するのでしょうか?
眞鍋:いまの時代は「受け手が自分の見たいコンテンツを選んで見る」時代です。ですからメディアや企業が一方的に押し付ける広告は、生活者になかなか届きにくい。下の図は、今回の『ドリーマー』の企画書の一部です。
左にあるように、広告はもともと企業が発したいメッセージを伝えるための媒体でした。そうではなく、今は右にあるように、「生活者が見たいと思っているもの」を作り、それを企業とのハブになるように企業のメッセージを載せて提供していく「コンテンツ」にシフトしています。
『ドリーマー』の場合、「他人の笑える居眠り姿」がハブになります。
居眠り姿をハブにした理由は複数あります。例えば、インターネットでは、電車で目撃した派手な寝相が話題になることがある。つまり、他人が見て楽しめるものとして成立します。また、海外などで日本の“inemuri(居眠り)”が話題になっていて、「働きすぎだ」などさまざまな反応があることも知っていました。そして、私も電車で居眠りしている人を見ると、「仕事がハードなんだな」と思いますし、「通勤時間が長いというだけでも疲れるだろうな」とも考えます。そこで、色々な人が居眠りする姿で構成した動画を制作する提案をしました。