ブランドリニューアルは「コアは変えずに再活性化を図る」こと
乙幡:本セッションでは、2023年3月に「チョコパイ」のブランドリニューアルを行ったロッテと、同年5月に「爽健美茶」のブランドリニューアルを行った日本コカ・コーラと一緒に、時代に応じたブランドリニューアルについて話していきたいと思います。
乙幡:まずは、本セッションでのブランドリニューアルの定義を確認していきます。ブランドの刷新には「リブランディング」と「ブランドリニューアル」の2種類があります。
リブランディングは、ブランドイメージやアイデンティティを大幅に変更して新たな方向性を打ち出すことを指します。一方リニューアルは、既存のブランドを改善・更新し、現代的な要素を取り入れてアップデートすることを意味しており、コアな部分を変えることなく時代の変化に応じて刷新を行います。
乙幡:刷新する主な理由には、「ブランドイメージの低下」や「売り上げの減退」などが挙げられます。成長が鈍化してきたブランドに、てこ入れをして再活性化を図るのがブランドリニューアルの役割です。
しかし、ブランドリニューアルは、社内の関連部署で説得を行う必要性や、既存と比べて得られる成果が不確実になるリスクがともなうため、非常に難しい施策です。
これまで実際に、商品デザインを変えるだけでも売り上げが落ちた事例を多く見てきました。今回は失敗を両社がどのように避け、成長に結びつけたのか、聞きたいと思います。
残すべきブランド資産を判断するイメージで変えた部分と変えなかった部分
乙幡:まず、ブランドリニューアルの理由と刷新のポイントを教えてください。
吉見:チョコパイは2023年で発売40周年を迎えました。それを機に、改めてブランド価値を見直し、リニューアルに踏み切りました。
吉見:チョコパイが持つ価値のなかでも、40年間一貫して変わらずにコアとなっている価値は「ケーキ感」です。
発売当時の1983年は、ヨーロッパの洋菓子が日本のデパ地下に進出したころでした。ただ頻繁にデパートにケーキを買いには行けません。家で手軽にケーキを食べたような気分を味わってもらいたいという思いからチョコパイは生まれ、時代と共に進化してきました。
吉見:今回のリニューアルのポイントは品質とパッケージです。クリームの甘さを従来よりも控えめにし、口に入れた瞬間にくちどけの良い味わいになるようにしています。変わった部分を伝えるため、パッケージのデザインを変更しました。チョコパイを想起させるデザインはブランド資産として残しつつも、新たなコピーである「味わい軽やか新ホイップクリーム」を大きく入れています。
山腰:爽健美茶は1994年発売で、今年が30年目です。発売以来、幅広い年代のお客様に支持されて成長してきました。しかし、無糖茶の選択肢が増えたことで競争が激しくなった結果、ブランドイメージが希薄化してしまい、若い世代(20代)のライトユーザーが減っているという課題を抱えていました。
山腰:ですが、実際に爽健美茶へのイメージ調査を行ってみると、世代を問わず爽健美茶の味わいに対する評価や、ブランドの好意度は非常に高いものでした。加えて、「飲むと気分がリフレッシュして前向きな気持ちになる」という情緒価値もあることがわかりました。
それは爽健美茶ならではの強みだったので、リニューアルによって、特に若年層が手に取る“きっかけ”を作ることが必要だと考えました。
リニューアルを行う上でのポイントは三つありました。一つ目がパッケージデザインの刷新です。ずっと横書きだったブランドロゴを縦書きに変えることで、ブランドリニューアルを実施したことを気づいてもらいやすくしています。ほかにも大幅にデザインを変更しましたが、ブランドイメージとして資産になっているグリーンとホワイトのカラーを基調にしてデザインを行いました。
二つ目は、中味のグレードアップです。すっきり香ばしい味わいはそのままに、新たに国産ハトムギを加えました。
三つ目は、新たなコミュニケーションです。爽健美茶ならではの価値を若年層に共感してもらえるような方法で伝えることにしました。
乙幡:ブランドの課題を細かく捉え、それに対してアクションしている点は重要に感じますね。では、具体的にはどのようにブランドリニューアルを進めたのでしょうか。