AIと人間の役割分担。線引きはどうする?
杉原:小島さんは、AI自動入札が主流になるなかで「人間が判断すべきこと」と「AIに任せていいこと」の線引きをどう考えていますか?
小島:ファクトを集めて整理することはAIが圧倒的に得意で、人間はもう敵わない段階にあると感じます。これまでそういった作業に使っていた時間から、いま解放されています。AIに任せれば確実に70〜80点には届く今、残りの20点――ファクトを基にどんな仮説を立て、どんなストーリーを作るかが人間の、マーケターの腕の見せどころだと思います。
杉原:同時に、AIの精度が上がったからこそ、逆に鵜呑みにしてしまう危険も高まっていると感じます。以前はハルシネーションも多く、疑いながら使うのが当然でしたが、精度が上がった今、どこまで信じてどこで人間が介在するかの設計、つまりヒューマン・イン・ザ・ループをどう組み込むかがより重要になるでしょう。
AI時代、ブランドのトンマナや感性の守り方
杉原:続いて、ブランドのトンマナや感性をどう守りますか? AIにどこまで判断を委ねていいか、その「線引き」はどこでしょうか?

藤原:線引きは明確です。AIに任せるのはあくまで材料を集めて整理するところまでで、判断・意思決定は人間がします。
問題は「いい感じに出して」とAIに丸投げすることです。そうなれば平均値にしかなりません。大切なのは最初に何をAIに渡すかを人間がきちんと設計することです。判断できる材料までAIに持ってこさせて、最後は自分が判断する構造を作れるかどうかが問われています。
トンマナについては、ブランドブックが多くの会社に既にあるはずなので、まずそれを見直すことが第一歩だと思います。
加えて、Whatだけでなく、「なぜこれなのか」というWhyをAIにきちんと伝えられるかどうかが重要です。判断の背景にある意図や文脈を渡してこそ、AIのアウトプットがブランドの文脈に沿ったものになるためです。
杉原:最近は、それを「AIブリーフ」と呼びますよね。そのブリーフを、自分で論理立てて構造化して書けるかどうか。結局はそこが問われているのだと思います。
小島:私からは「ブランドのトンマナ」に関して、少し違う視点で。一般的にマス(マクロ Who)か、スモールマス(マイクロ Who)かという議論があるかと思いますが、AIの進化によって、1億人分の1to1=究極のマイクロWhoマーケティングも現実味を帯びてきています。
これが実現すれば、ブランドの核は1つに、人やシーンによってトンマナや表情を変えてシームレスに届けられるようになります。それは、統一された1つの“ブランド”が消失するという話ではありません。むしろ求められるシーンによって、「"ブランド"が柔軟に変化すること」、これをAIで実現できるかどうかが、次の時代の勝ち筋になると考えています。
AIレディな組織を作るために力を入れるべきことは?
杉原:ここまで議論してきたことを実現するためには、AIレディな組織であることが前提になります。AIレディな組織を作るために、最初に力を入れるべきことは何でしょうか。
藤原:まずは、カルチャーからですね。経営者自らが率先してAIを使うことが最初の一歩です。トップが使っていなければ、組織全体には広がりません。経営層と現場の間にある壁を壊して、AIが自然に組み込まれた組織構造に作り直すことが求められます。
そして外部リソースの活用です。変化のスピードが速い今、すべてを自前でやろうとしないこと。外部の専門家をチームに組み込んで、社内外の境界を越えて動ける体制を作ることが重要だと思います。
杉原:海外では「FDE(Forward Deployed Engineer)」というAI職種が海外で改めて注目を集めています。日本の組織に合うかどうかは議論の余地がありますが、ぜひ一度調べてみてください。
小島さんは、若手マーケターに対して「AIに取られないスキル」を教えるとしたら、何から始めますか?
小島:一つ明確にあるとすれば、「構造化力」です。抽象と具体を行き来する、総論と各論に分ける、因数分解して考える。言い方は様々でしょう。
AIによって浴びる情報量が圧倒的に増えるなかで、それを鵜呑みにするリスクも高まります。今自分がどこにいるのか、何をしているのかを見失わないためにも、常に構造化して考える習慣が土台にあれば、AI活用のスピードも大きく変わってくると思います。
杉原:本日は、現場の最前線で事業を伸ばしてきたお二人から、AI活用における投資判断と目利き力について具体的なお話をうかがえました。ありがとうございました。

