※本記事は、2024年9月刊行の『MarkeZine』(雑誌)105号に掲載したものです
【特集】Update:BtoBマーケティングの進化を追う
─ AIの到来とMQLの終焉、そして新分野の台頭──庭山一郎氏に聞く、世界のBtoBマーケティングの今
─ 代理店販売は「営業」ではなく「マーケティング」である。BtoB企業が今こそ注力すべき「PRM」とは(本記事)
─ 世界標準のオペレーションとは?『RevOpsの教科書』『MOpsの教科書』著者に聞く
─ RevOpsを名前だけで理解していないか?ソフトバンクのレベニューオペレーション室が重視していること
─ 案件創出数は3年で3倍に 旭化成エレクトロニクスが辿ってきたABMの軌跡
─ NTTコミュニケーションズはなぜ全社をあげて戦略を実行できるのか?「BtoBマーケ5つの戦略」の裏側
─ 生成AI活用は面接でも聞かれる必須スキルに。LinkedInに聞くBtoBマーケのグローバルトレンド
─ BtoBのブランディング、何から始めればよい?効果検証も可能なブランディング戦略の考え方【前編】
─ BtoBブランディングの基本:どんな企業も見るべき重要指標「純粋想起率」とその高め方
─ 進むリアル回帰、BtoBマーケティングはどう変わる?[vol.1]プレイド・阪 茉紘氏
─ 進むリアル回帰、BtoBマーケティングはどう変わる?[vol.2]suswork・田岡 凌氏
─ 進むリアル回帰、BtoBマーケティングはどう変わる?[vol.3]ギフティ・篠塚 大樹氏
─ 進むリアル回帰、BtoBマーケティングはどう変わる?[vol.4]サイバーセキュリティクラウド
─ 進むリアル回帰、BtoBマーケティングはどう変わる?[vol.5]ミスミ・大川英恵氏
BtoB市場は代理店経由の売上が75%、PRMがビジネスの鍵
──はじめにPRMとは何か、またなぜ重要なのかを教えてください。
PRMとは、メーカーが代理店(パートナー)と良好な関係を構築し、代理店経由の売上を拡大していくビジネス戦略です。企業があるサービスを流通させるにあたっては大きく2つのやり方があります。1つは自社で営業担当者を採用して販売したり、自社Webサイトを販売チャネルにしたりする直販型です。もう1つはパートナーである外部の代理店、つまり他社の営業網で流通させるやり方です。グローバルで見ると、BtoBサービスの流通金額のうち75%は、この代理店経由の売上が占めています。日本国内ではBtoBの流通金額が約1,100兆円と言われているので、そのうち800兆円前後は代理店経由の売上と見ることができます。
BtoB商材の場合、パートナーと良好な関係を築くことはビジネス戦略上、非常に重要です。2019年7月に発表されたMicrosoft TeamsがSlackのダウンロード数を上回るニュースに、テック業界は一瞬騒然となりました。2013年ローンチのSlackは、ほかのSaaSスタートアップと比較しても圧倒的なスピードで立ち上がりました。
Bessemer Venture Partnersが2019年に発表したクラウドレポートで比較されているSaaS企業を見てみると、SlackがいかにSaaSスタートアップの中でも群を抜いてユーザー数や売上規模を増やしたかがよくわかります。そのSlackをMicrosoft Teamsがあっという間に抜いたのです(図表1)。
この要因はいくつかありますが、その1つに、元々エンタープライズ領域で強力な営業部隊とインセンティブプログラムのもとに動いている外部販売パートナー企業のエコシステムがあったことが挙げられます。
こうしたことから、特に米国においてPRMは重要戦略と位置付けられており、今まさに様々なソリューションベンダーが登場して市場が急成長しています。
──日本国内ではまだPRMは根付いていないように感じますが、いかがでしょうか?
日本国内のPRMについては、米国と比べて10〜15年は遅れていると思います。私なりの分析ですが、日本で営業活動のデータ化が広まったのはセールスフォースが普及し始めた10〜15年前のことだと認識しています。とはいえ実はこの営業活動のデータ化についても日本は遅れているのが現状でして、「従業員10名以上の企業のクラウドCRM利用率」で言えば、米国は90%以上ですが日本だと36%しかありません。つまり米国企業はクラウドネイティブで、データを集約して分析して活用しようというカルチャーが根付いているのですが、日本ではまだ遅れているのです。
PRMも同じです。PRMソリューションを導入している米国企業は70%ですが、日本企業はおそらく10%にも満たないでしょう。ここにも大きな溝があります。2019年にPRMクラウドサービス「Partner Success」をローンチしましたが、当時国内にPRMソリューションベンダーは当社以外になく、現在ようやく5〜6社に増えたという状況です。